「顧客基点」「地域基点」の「コミュニケーションリテイラー」としての成長へ
代表取締役社長
荒木 直也
地域生活者からの「共感」「信頼」「愛着」が当社の成長を後押しする
私たちH2Oリテイリンググループは、「地域住民への生活モデルの提供を通して、地域社会になくてはならない存在であり続けること」を基本理念に、関西に深く根ざした事業を展開しています。
関西エリアに多くの株主が存在するだけでなく、食品スーパーをご利用になるお客さまが株主でもあり、そのご家族が当社グループのお取引先に勤務していることも珍しくありません。そのため、お客さま、株主、従業員、そして地域社会といったステークホルダーが密接にかかわり、自然に深く結びついています。だからこそ、地域 社会の持続的な発展と豊かさに貢献することが、私たちの成長の根幹をなすという信念のもと、「地域共創活動」に取り組んできました。
しかし、これまではサステナビリティ活動の一環としての社会貢献の側面が強く、事業に与える影響は限定的なもの、と正直思っていました。ところが今、その関係性は 大きく変化しています。サステナビリティの取り組みとして始まった活動が新たな事 業へと進化し、事業開発を意図して推進する取り組みが地域の課題解決につながる。そうした新たな循環が、グループの中で生まれ始めています。
例えば、千里中央公園(大阪府豊中市)の公園活性化事業です。当初は、地域住民の健康増進や交流の場を創出する地域共創活動の側面が強い取り組みでした。エイチ・ツー・オー リテイリングが主体となり複数の企業と連携して、カフェやコンビニエンスストア、コミュニティスペースを整備し、地域住民参加型のイベントや交流会などを連打することで、利用者が急減していた公園を新たなコミュニティ拠点として再生することができました。今では、このプロジェクト運営で培ったノウハウが高く評価され、全国の自治体や企業・大学からの視察が相次ぎ、複数の自治体から地域活性化のコンサルティングを受注する事業へと進化しつつあります。
一方で、2025年5月から開始した「まち健」も、その好例です。「まちかどの楽しく手軽 な健康チェックから地域を健康にする」をコンセプトに、オンラインとリアルの両面からサービス開発を進める新規事業。兵庫県川西市と連携して健康チェックイベントを実施したところ、5日間で約1,100人もの方々にご参加いただきました。これは、川西市が抱える健康診断受診率の向上という社会課題解決に貢献するものであり、まさに事業活動を通じた社会価値創造の実践となりました。
このようにサステナビリティ活動として始まっても、事業としてスタートしても、行き着く先は同じ。両者の境界は、もはやなくなりつつあります。地域を「豊かに元気にする」ための「地域共創活動」によって、私たちグループと地域の生活者との関係性がより強固になり、そこに新しいビジネスチャンスが生まれるという手応えを感じています。関西エリアに事業を集中し、「店舗」「地域共創」「デジタル」での多彩な顧客接点を持つ当社ならではの競争優位性=地域生活者からの「共感」「信頼」「愛着」は、デジタル化・AI化による省人化・効率化で「人」対「人」の関係がますます希薄化するこれからの時代において、「コミュニケーションリテイラー」として成長を目指す当社グループの大きな武器になる、と確信しています。
時代変化をとらえ、パーソナルな顧客対応を進める
今、目まぐるしく変化する時代環境の中、お客さまの消費行動も大きく変化し、さまざまな「二極化」が顕在化しています。
かつて百貨店の収益を支えてきたのは、フォーマルな「ハレ」と日常の「ケ」の中間にあたる「コハレ」というシーンでした。例えば、スーツで出勤したり、おしゃれをして外食したりといった適度にフォーマルな場面です。しかし、働き方のカジュアル化などにより、この「コハレ」の場面は急減し、「ハレ」と「ケ」に集約されつつあります。一方で、物価高から日々の暮らしでは財布のひもを固くする半面、「推し活」のように自らの価値観に合うものには惜しみなくお金を使うという新しい消費スタイルも定着しました。
また、ショッピングから自己表現まであらゆるものがデジタルで完結するライフスタイルが浸透する一方で、リアルな場での「体験価値」へのニーズは、私たちの想像以上に力強いものがあります。百貨店の来店客数はコロナ禍以前にはおよばないものの、特定の催事では当時を上回る熱気と高い反応が見られます。これは消費行動における大きな変化としてとらえています。
私たちは、この「二極化」に象徴される時代潮流を的確にとらえ、リアル店舗とデジタルの活用を通じ、お客さま一人ひとりの価値観をとらえパーソナルに寄り添うことで、新たな事業機会を創出していきたいと考えています
長期的・構造的な課題に対し「コミュニケーションリテイラー」モデルで成長を目指す
こうした消費行動の変化に加え、小売業を営む私たちには、「人口減少」という長期的な構造変化を乗り越えるという重大な課題があります。「マーケットの縮小」や「人手不足」といったリスクを乗り越え、持続的な成長をいかに実現するか。その答えとして策定した成長戦略が「長期事業構想2030 Ver.2」です。
その成長戦略は、①購買単価を引き上げる、②新しいマーケットを開拓する、の2点に集約されます。そのために、関西での強い顧客基盤をベースに、リアル店舗とデジタルの活用で顧客とのパーソナルな関係を深化させることで「LTV」を高め生涯にわたる購買額を最大化する、という「コミュニケーションリテイラー」モデルで成長を図ります。これを実現可能にするのは、「500店舗での顧客接点」「1000万人を目指す顧客データのデジタル活用」、冒頭にお話しした「地域生活者の『共感』『信頼』『愛着』」の3つの優位性になります。さらに、新しいマーケットの開拓は、「店舗基点」から、「コミュニケーションリテイラー」として「顧客基点」に転換し、次の4つの着眼点で現在準備を進めています。
①急増しリピーター化する海外顧客に向けてのビジネス確立
②富裕層に向けてラグジュアリーブランドだけに依存しないビジネス開発
③地域や地域住民を元気にする共創活動の拡大とビジネス化
④購買データに検索・行動データを加え、外部データとクロスさせた顧客データ活用ビジネス
これらの計画は、現在同時進行で準備し着実に実現を図っています。4万人に上る海外富裕層を識別顧客化し、特にリピーターに向けての買い物サポートや体験型コンテンツの提案を進めていきます。また、地域グルメアプリ「まちうま」は大阪府高槻市の人口約34万人に対し10万人を超える会員登録をいただいています。2026年にリリース予定の百貨店アプリを起爆剤とし、グループ共通ID「H2O ID」を軸とした顧客接点の拡大を通じて、顧客を「知る」「深める」「ビジネス化する」をさらに加速させていきます。
プロセスの開示と資本コスト・株価を意識した経営の継続
このように戦略は着実に実を結びつつありますが、こうした私たちの価値が資本市場にはまだ十分に伝わっていない、という課題も認識しています。現在のPBRがそれを示していると真摯に受け止め、「コミュニケーションリテイラー」という未来の成長ストーリーの、具体的な進捗プロセスと成果を開示すること。これが、私に課せられた最大の責務です。PBR1倍超の早期達成と定着に向け、「成長戦略の明確化」「株主還元の強化」「株主投資家層拡大とコミュニケーションの強化」を三位一体で推進し、資本コストや株価を常に意識した経営を徹底することに注力していきます。
企業価値向上を支える「人」の力
これらの構想を実現するのは、言うまでもなく「人」です。当社は2024年、企業と従業員の関係は「ともに価値を高め成長し合う共創パートナー」であると宣言しました。つまり、企業と個人は上下の関係ではなく、「共鳴」「共創」する対等な関係だという考えです。企業の成長が個人の成長機会を増やし、個人の成長が企業の成長を牽引するという好循環を目指します。
当社グループは、合併を重ねた多様な出自の従業員の集合体ですが、幸いにも、その中に一つの共通のDNAが息づいています。それは、お客さまの喜びを自らの喜びとして実感できる「顧客志向人材」であるということです。この誇るべきDNAを土台としながら、今後は既存の「店舗」という枠を飛び越え、新たな市場やビジネスモデルを開拓する「自立自走型人材」「価値創造型フロンティア人材」の育成を強化し、事業ポートフォリオの進化に合わせた人材ポートフォリオの変革を進めていきます。
中期経営計画の達成へ
中期経営計画の初年度にあたる2024年度は、環境の追い風に恵まれて想定を上回る好調な結果でした。円安基調の為替相場、リベンジ消費、物価高、これらの要因により、営業利益は当初目標を2年前倒しで達成、長期事業構想2030 Ver.2の実現に向けた取り組みを加速させた一年でした。2025年度は、前年の反動・工事の影響などで、一時的に減益を見込んでいますが、2026年度は、阪急うめだ本店の「グローバルデパートメントストア」を目指した大型リモデルや食品スーパーにおける「価値訴求型 (Aタイプ)」「価格訴求型(Cタイプ)」2モデルに基づく改装推進などの成長投資効果を取り込み、中期経営計画の着実な達成を目指します。
ステークホルダーの皆さまへ -未来への成長する姿を-
さまざまな要因によるものとはいえ、足踏みする直近の業績は、既存のビジネスモデルだけでは中長期的な成長に限界があることも示唆しています。だからこそ、既存の国内顧客・店舗ビジネスを建物の「一階」とするならば、今こそ「二階の増築」に本格的に取り組む必要があります。その増築の内容は、先ほどお話しした4つの着眼点「海外顧客ビジネスの確立」「富裕層に向けたビジネス開発」「地域を元気にする活動の拡大・ビジネス化」「顧客データ活用ビジネス」です。そしてこの一階・二階を支える大黒柱が「地域生活者からの共感・信頼・愛着」と「強固な顧客基盤に基づくデータ活用」ということになります。
原点である関西から私たちの強みを最大限活かし、 「コミュニケーションリテイラー」として「顧客生涯買上額の最大化」と「顧客基点の新しいマーケット開拓」への具体的な取り組みを通じ新しい成長の姿をお示ししていきます。
(「エイチ・ツー・オー リテイリング 統合レポート2025」トップメッセージより)
