美しい地球環境を未来に引き継いでいくために、気候変動問題への対応は私たちの世代が取り組むべき喫緊の課題です。また、気候変動によって増加・激甚化が予想される自然災害は、当社グループの事業活動にも大きな影響を及ぼします。こうした認識に基づき、気候変動に伴うリスクや機会が事業戦略に及ぼす影響の把握、戦略のレジリエンスと対応策の検討を継続的に実施しております。

2022年6月に、当社グループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同いたしました。TCFD提言が推奨する4つの開示項目「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標と目標」に沿って、気候関連課題に関する情報開示の充実を図ってまいります。

※世界経済の安定性に向けて、金融安定理事会(FSB)が2015年に設立し、気候変動がもたらすリスクおよび機会の財務的影響を把握し開示することを目的とするタスクフォース。

ガバナンス

気候関連課題マネジメント体制と役割

体制

役割

取締役会

気候関連課題を含むサステナビリティ課題に関する取り組みの進捗を監督。

毎月開催。

グループ経営会議

サステナビリティ経営推進委員会で行われた議論を審議し、取締役会へ報告。

毎月開催。

サステナビリティ

経営推進委員会

気候関連リスクおよび機会の戦略に関する事項を審議。サステナビリティ推進部が事務局を務め、気候関連情報の収集、取りまとめ、情報提供を行う。

毎月開催。

コンプライアンス・

リスクマネジメント

委員会

サステナビリティ経営推進委員会における議論を共有し、自然災害等の際の事業運営の継続のためのBCPプランについて検討。

随時開催。

経営者の役割

社長は、グループ経営会議の議長、サステナビリティ経営推進委員会の委員長を務め、環境課題に関する最終的な責任を負っています。サステナビリティ経営推進委員会で議論された内容は、グループ経営会議において審議され、取締役会へ報告を行っております。

リスク管理

気候関連リスクの識別・評価・管理プロセス、全社的リスク管理への統合

当社グループは、サステナビリティ経営推進委員会において、気候関連のリスクを洗い出し、当社グループと関連性の深いリスクを特定した上で、委員がトップを務める各事業セグメント傘下の事業会社へ共有し、管理を行っております。関連性の深いリスクは、当社グループ事業の特性、同業他社の認識、外部有識者の助言を総合的に検討し、リスクの発生頻度・可能性と、リスク発生時の影響額の大きさを考慮した上で特定しています。特定されたリスクは、委員を通じて各事業会社の取り組みに落とし込み、定期的な委員会の議論の場と、当社と各事業会社のサステナビリティ推進責任者間の連携を通じて、進捗管理を行っています。
サステナビリティ経営推進委員会で行われた議論の内容については、コンプライアンス・リスクマネジメント委員会への共有を行うとともに、グループ経営会議において審議を行い、取締役会へ報告を行うプロセスを通じて、全社のリスク管理プロセスと統合しています。

指標と目標

気候関連のリスク及び機会を管理する際に用いる指標

当社グループは、気候関連のリスク及び機会を管理する際の指標として、Scope1,2,3の温室効果ガス排出量を使用しております。
 

Scope1,2,3のGHG排出量、目標および実績

当社グループは、2020年度よりScope1,2,3の温室効果ガス排出量の算定を開始するとともに、中長期目標を設定し、GHG削減に取り組んでおります。長期目標として、2050年度の当社グループのGHG排出実質ゼロを目指しており、この目標達成に向けて、2030年度の中期目標(2019年度比30%削減)を設定し、具体的な取り組みを推進しております。
2020年度実績については、2019年度比で11%の削減となりました。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う店舗休業等の影響もあるため、今後、短期的には増加が見込まれるものの、2022年度から阪急うめだ本店の使用電力を再生可能エネルギーに順次切り替えるなど、着実に削減を図ってまいります。

 

対象 Scope

2019年度GHG排出量

(t-CO2e/年)

2020年度GHG排出量

(t-CO2e/年)

2030年度

GHG削減目標

主要14社 Scope1 48,966 48,350

Scope1,2 ▲30%

(2019年度比)

Scope2

(ロケーション基準)

240,407 220,183

Scope2

(マーケット基準)

189,637 164,869
主要4社 Scope3

2,441,116

2,178,807 -

 

主要14社:㈱阪急阪神百貨店、 ㈱阪急オアシス、イズミヤ㈱、 ㈱エイチ・ツー・オー商業開発、カナート ㈱、㈱阪急フーズ、㈱阪急デリカアイ、㈱阪急ベーカリー、㈱阪急フードプロセス、 ㈱阪急キッチンエール関西、 ㈱大井開発、 ㈱阪急商業開発、㈱アズナス、エイチ・ツー・オー リテイリング㈱
主要4社: ㈱阪急阪神百貨店、 ㈱阪急オアシス、イズミヤ㈱、 ㈱エイチ・ツー・オー商業開発
※主要14社で当社グループの売上の94%を、主要4社で80%を占める

Scope1:燃料の燃焼等のCO2、冷凍機からのフロン等のGHG(温室効果ガス)排出量
Scope2:電気の使用によるGHG排出量
Scope3:サプライチェーンの上下流を含むGHG排出量

 

戦略

短期・中期・長期の気候関連 のリスク及び機会

【想定シナリオ】2℃未満と4℃の2つシナリオにおける2030年の事業環境

気候変動が当社グループに与えるリスク・機会とそのインパクトの把握、および戦略のレジリエンスと施策の検討を目的としてシナリオ分析を実施しました。
2030年に当社グループを取り巻く事業環境について、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などが公表する複数の既存シナリオを参照した上で、気候変動対策が進み、産業革命前からの全世界の平均気温の上昇が2℃未満に抑えられる「2°C未満シナリオ」と、新たな政策・制度が導入されない現在の延長線上の世界である「4°Cシナリオ」の2つのシナリオを想定しております。

2℃未満シナリオ

4℃シナリオ

脱炭素化施策推進、生活者の環境問題への関心向上などの移行リスクが高まる

脱炭素化は推進されず、

商品調達や店舗運営での物理リスクが高まる

政策

  • 政策として炭素の価格付けがおこなわれ、炭素排出がコストとして事業活動に組み込まれる
  • 炭素の価格付けがなされず、事業活動における大幅な炭素排出削減の必要性は高まらない

主力電源・

設備

  • 低炭素排出の電源需要が高まり、再エネ比率向上
  • 省エネやEV(電気自動車)化対応への投資の必要性拡大
  • 再エネの需要は大きく高まらず、火力発電継続
  • 省エネ・EV(電気自動車)対応の必要性の大幅な変化はない

社会

  • サーキュラーエコノミー関連ビジネスの拡大
  • ステークホルダーの環境配慮の姿勢が一般化
  • リニアエコノミー継続
  • 環境に対する厳しい目線は一部のステークホルダーにとどまり、既存ビジネス継続への支障はない

生活者

  • 環境配慮、ビーガンなどサステナブルなライフスタイルを志向する生活者が増加
  • ライフスタイルに変化はなく、環境配慮型商品への需要は高まらない
  • 防災品や備蓄品への関心は高まる

農産品・
畜産・水産

  • 農産物の仕入れは従来通り可能
  • 干ばつや洪水等により農産物の安定調達に支障

気候・

自然災害

  • 異常気象は、現在顕在化している水準にとどまる
  • 気象災害の規模・頻度が大きくなり、影響を受ける事業所・サプライチェーン・生活者が増加
  • 事業継続に必要な適応・対策コストが高騰

※参照した既存シナリオ
2℃未満シナリオ 
IEAによる持続可能な開発シナリオ(SDS)、各省庁の将来政策目標等、IPCCによるRCP2.6 
4℃シナリオ 
IEAによる公表政策を基にしたシナリオ(STEPS)、IPCCによるRCP8.5

想定シナリオに基づく当社グループへの影響が大きいリスク

分類 NO. 具体的内容 事業及び財務への影響

2℃未満シナリオ

4℃シナリオ

移行リスク
 

政策と法

炭素税の支払いによる支出増
商品調達コスト・廃棄コストの増加
技術

省エネルギー、GHG排出低減設備投資の増加

(LED化、ノンフロン冷媒機器)

市場 ニーズに適うものでない商品・サービスであることによる売上の減少
再生可能エネルギーコストの増加
物理的リスク 急性

被災による売上の減少、復旧コストの増加

(台風、豪雨、高潮)

慢性

調達の不安定化による

調達コスト増加、売上減少

(農産物・魚介類減少、畜産品高騰)

想定シナリオに基づく当社グループへの影響が大きい機会

分類 NO. 具体的内容 事業及び財務への影響
2℃未満シナリオ 4℃シナリオ
エネルギー源 再生可能エネルギーへの切り替えによる炭素税支払コストの削減
製品・サービス

環境配慮型商品・サービスの売上増加

容器包装コストの減少

サーキュラーエコノミー関連商品・サービスの売上増加

市場 EVの充電設備拡充による集客力向上
地域のサステナビリティ発信拠点としての市場創出

顧客のライフスタイルの脱炭素化を支援する市場創出

レジリエンス

非来店購買手段提供による売上増加

 

特定されたリスクおよび機会の財務インパクト、対応策については、検討を進めており、2022年秋発行の統合レポートにおいて開示を予定しております。