エイチ・ツー・オー リテイリング 経営企画グループ 若井伸也さん

「わかってはいるけど…」、「健康が気になるな…」。そう感じていても、誰かに言ってもらわないと健康診断に行くきっかけって、なかなか見つけにくいものですよね。今、いつものお買い物場所で、そんな気持ちにそっと寄り添い、健康への第一歩を後押しする当社グループの取り組みが始まったのをご存じでしょうか?
エイチ・ツー・オー リテイリングが始めた気軽に健康チェックをしてもらうことで健康習慣を応援する新しいサービス、その名も「まち健」。なぜ小売業である私たちが健康チェックを? そんな疑問を胸に、この取り組みを推進するエイチ・ツー・オー リテイリング経営企画グループの若井伸也さんにお話を聞きました。(編集部)          

健康への「気づき」を、もっと気軽に、もっと身近に

ー5月末に川西阪急スクエアで、初めて「まち健」の健康チェックイベントを開催されましたが、いかがでしたか?


正直なところ、手探りの状態からのスタートでした。「健康」という分野をお客さまに向けたサービスとして展開することは今まで全く取り組んだことがないので、自分たちでどこまでできるのか、という点が一番の懸念でした。私たちは医師ではないので、病気を治療することはできません 。しかし、生活習慣病などの病気になってしまう前の段階、つまり「未病」の状態の方々に、病気を未然に防ぐための「きっかけ」を提供することはできると考えました。また、「健康チェック」をきっかけにして、国保の特定健診を未受診の方々に対して、行政が実施する検診の受診につなげることができるのでは、という仮説を立てました。これが、我々の考える「健康マネジメントサービス」です。
実際にイベントを開催してみると、予想以上に多くの方にご参加いただき、本当に驚きました。当初1週間で1000名の方にご参加いただければ大成功と想定していたのですが、最終的には約1200名の方が来てくださり、ほぼ100%に近い参加者に「満足した」というお声をいただきました。
さらに、特定健診だけでなく、がん検診の案内にも大きなニーズがあることも判明しました。イベント開催期間中に、特定健診が約20件、がん検診を含めると80〜90件も予約サポートができました。行政の方々も大変喜んでくださり、お客さまのお役に立てたと感じています。
 

川西阪急スクエアで開催された「健康チェックイベント」の様子

ー自治体と連携して、健診のきっかけ作りができたのは素晴らしいですね。なぜ、これほど多くの方が参加してくださったと思いますか?

 

「おでかけついでに」、「気軽に、ゆるく」、「お得に楽しく」という、私たちのコンセプトがお客さまに響いたのだと思います 。行政が実施するイベントだと、どうしても「受診しなければ」という気持ちで構えてしまいがちですが、普段利用する百貨店やスーパーなどで、お買い物のついでに気軽に楽しみながら健康チェックができるという気軽さが、皆さんの心のハードルを下げたのではないでしょうか 。

 

ーお客さまからどのような声がありましたか?

 

健康チェックそのものを喜んでくださる声も多かったのですが、特に印象的だったのは、ご高齢の方からの「1週間、誰とも喋っていなかったけれど、ここに来て皆さんと喋るきっかけができて嬉しい」というお声でした 。健康チェックのイベントというだけでなく、社会的なつながりやコミュニティ形成の場としてもお役に立てていると感じ、非常に嬉しかったです 。また、「健診に行かなきゃとは思っていたけど、なかなか行けていなかったんだ」という方に、「今、予約しましょうか?」と声をかけたら、「ありがとう、頼むわ。こんなサービスを待っていたんや」というお声や、川西市以外にお住いの方からも「うちの自治体でもやって欲しい」という、私たちが欲しかったお声もいただき、それも本当に嬉しかったです。
 

思わず立ち寄りたくなってしまう楽しいポスター

「小売り」の強みを「健康分野」へ

ーそれは素晴らしいですね。リアルな場を持つH2Oリテイリングだからこその強みですね。


おっしゃる通り、それが私たちの最大の強みです。世の中には健康アプリがたくさんありますが、デジタルだけで完結しているものが多いのが現実です 。でも、私たちの強みは、お客さまと対面して、直接お話を聞けることです 。お客さまの顔を見て、ニーズを把握し、それに対してどうすれば力になれるかを考える。デジタルはあくまで継続をサポートするツールであって、やはり「対面のコミュニケーション」こそが最も大切だと考えています 。
「お客さまと、高い頻度で深くつながり、信頼関係を築きつづけることができる。」
これは百貨店やスーパーマーケットなどで培った我々グループの小売りの力。一見すると関係の薄い「健康」というカテゴリーにおいても、やはり我々のグループの持つ強みは「人」なんだと、改めて気付くことができました。

ーまさにH2Oグループが掲げる「コミュニケーションリテイラー」ですね。


はい。日本のヘルスケア系の企業の方々とお話ししていると、本当に素晴らしい技術やソリューションをたくさんお持ちです。「こんな技術があるんだ!」と感動するような、面白い技術が世界にはたくさんあります。でも、それを「どう使ったらいいか」、「どうお客さまにアプローチしたらいいか」、「どうビジネスにつなげたらいいか」と悩まれています。私たちは、そうした企業の方々とお客さまを「会話によって結びつける」役割を担えるのではないかと考えています。例えば、催事などで、素晴らしいものを提供できる生産者の方々と、美しいものを求めているお客さまを結ぶように、健康という分野でもそういった人やサービスの懸け橋となる役割を果たしていきたいです。私たちには、ベンチャー企業やヘルスケア事業者さんが長年培ってきたような技術はないかもしれません。ただ、お客さまとの接点があり、お客さまのニーズを肌で感じることができる 。だからこそ、そうした企業の方々と「コラボレーション」し、生活者の方々と接点を持っていただきながら、より大きな視点で一緒に「共創」していくことが大事だと考えています 。お客さまと地域社会を結び、さらにそれを支える企業とも手を取り合っていく。それが「コミュニケーションリテイラー」の役割だと私は考えています。
 

お客さまお一人お一人に、健康チェックの内容を説明します。

データを活用し、さらなる価値を創造する

ー H2Oリテイリングの強みは「対面でのコミュニケーション」だとおっしゃいました。「共創」を進める上で、この強みはどのように活かされていくのでしょうか?


自治体や素晴らしい技術を持つヘルスケア企業との連携は、「まち健」の大きな柱の一つです。そして、その連携をさらに強固にし、より多くのお客さまに最適なサービスを届けるために、私たちはデータの活用も重要だと考えています。グループ全体として、H2OID(H2Oリテイリング独自の顧客ID)の強化やデータ活用は大きなミッションですし、そこは同じ部門のプラットフォームチームなどとも連携して進めていきたいと考えています 。
ただ、今回のイベントで強く感じたのは、やはり「お客さまの顔を見て、自分たちに何ができるだろう?」と考えることの大切さでした 。データ起点で発想すると、時に事業者目線となってしまい本当に生活者が望むものとは違う方向に行ってしまう可能性もあるのですが、自分たちで汗をかきながらイベントを一から作り、お客さまの声を直接聞くことで、目指すべき方向がはっきり見えてきた気がします 。
私たちは「顧客起点」、あるいは「生活者起点」という言い方をしていますが、そこはどんなに時代が進んでも変わらない、私たちが将来目指すべき姿だと確信しています 。

 

ー「きっかけ」があっても「継続」するのが難しいのが、生活者の本音だと思います。このイベントを、日常的な健康習慣へとつなげていくために、どのようなアプローチを考えていますか?


イベントで多くの方にご参加いただき、「健康への気づき」を提供できたことは大きな成果でした。しかし、健康づくりは一過性のものでは意味がありません。そこで私たちは、お客さまが自律的に健康習慣を継続できるようなサポートを検討しています。
その一つのアプローチが、アプリ化です。2026年1月か2月頃にテストアプリをリリースする予定です。スマートフォンを活用することで、イベント後も継続的に健康状態をチェックしたり、健康に関する情報を手軽に受け取ったりできる仕組みを目指しています。

元々は40~50代の方々の、生活習慣病予防にアプローチしたいと考えていたのですが、今回のイベントで実際にはもう少しご高齢の方の参加が多いことが見えてきました。この年代の方々も健康に非常に高い関心を持っていることが分かり、大きな学びとなりました 。ただ、今後のアプリ展開を考えると、スマートフォンに不慣れな方も多いという点で、どのようにアプローチしていくかは検討が必要だと思います。
また、データ活用も重要だと考えていますが、グループ内のデータ統合などすぐには解決できない課題も多いので、まずは自治体の方々やヘルスケア企業の方々との連携を強化しながら、サービスだけでビジネスとして継続できる形を早期に確立したいと考えています 。
 

広がる「まち健」の輪

ー今後さまざまな企業や地域との連携も増えていきそうですね。

 

はい。豊中市で歯科医の先生が私財を投じて健康イベントをされているのですが、「地域のために」という理念に共感し、私たちも7月に参加させていただきました 。他にも、警察署の防犯防災イベントや、商店街のイベントなど、おかげさまで、多くの団体からお声がけをいただいており、嬉しい悲鳴です(笑)

 

ー最後にこれからの抱負を教えてください。

 

「まち健」は、まだまだ始まったばかりの取り組みですが、地域に根差し、地域の方の健康と幸せに貢献できる可能性を強く感じています。これからもお客さまの声に耳を傾け、さまざまな方々と手を取り合いながら、地域社会に新しい価値を創造していきたいと思います。ぜひ今後の「まち健」にご期待ください。