左上から時計回り:阪急本店グリーンエイジ開発部の前田陽一郎さん、小栗雄太さん、中島浩介さん、真庭市に出向している佐藤宏樹さん
 

阪急阪神百貨店は、岡山県真庭市と協業し、大山隠岐国立公園内に位置する蒜山(ひるぜん)高原を中心に、人と自然のつながりをブランド化する取り組み「GREENable(グリーナブル)」を進めています。この活動が認められ、2022年3月末には、百貨店業界として初めて環境省の「国立公園オフィシャルパートナー」に認定されました。今後は全国の国立公園へ活動を広げることを目指しています。担当者の声をお届けします。

(編集部)

蒜山高原との縁、「GREENable」に込めた思い

「GREENable」は「グリーン(緑)」と「サステナブル(持続可能な)」をかけ合わせた造語です。地域が育んできた豊かな自然や文化と、阪急阪神百貨店が培ってきた感性を組み合わせて、新しい価値を持つ「商品」や「体験」として提供し、「人と自然が共生する暮らし」を広げたい――そんな考え方や取り組みを表すコミュニティ・ブランドです。2020年から岡山県真庭市と連携し、同市の蒜山高原をブランディング(潜在価値の顕在化)する取り組みを進めてきました。2021年7月15日、岡山県真庭市の蒜山高原に誕生した「GREENable HIRUZEN」が発信拠点です。


阪急本店グリーンエイジ開発部の前田陽一郎さん、小栗雄太さん、中島浩介さん、真庭市に出向している佐藤宏樹さんに聞きました。
 

「GREENable HIRUZEN」の情報発信拠点パビリオン「風の葉」。デザインは隈研吾さん ⓒ川澄・小林研二写真事務所

ーー真庭市、蒜山高原とのご縁は?

 

前田さん :わたしが家族旅行で訪れたことがきっかけです。1998~2003年に駐在していた英国を思い出しました。豊かな自然がある場所で、ここで日本版の「ザ・ナショナル・トラスト」活動ができないだろうかと思い立ちました。

 

ーー英国の環境保護団体の活動がモデルですね

 

前田さん :イギリスで、産業革命が進む1885年、貴重な自然環境や歴史的建造物を開発から守るために設立された環境保護団体です。市民が募金などで買い取ったり寄付・寄贈を受けたりして、自らが所有者となって土地を大切に保全し、次世代へ引き継ぐ活動を行っています。今では英国人が、まるで週末のレジャーを楽しむように環境保全活動に参加している姿を思い出し、真庭市で同じようなことができないだろうか……という思いがありました。

 

ーー真庭市と会社に提案して、すぐに認められましたか?

 

前田さん:アクションを起こした2018年は、絶好のタイミングでした。阪急阪神百貨店では、サステナビリティ経営への機運が高まりつつあって、一方の真庭市でも、蒜山高原の観光地としての活性化を検討中だったのです。

 

ーー双方にとってとてもよいタイミングでしたね

 

前田さん:縁としかいいようがないタイミングでした。蒜山高原は、岡山県内で倉敷市に次ぐ観光地ですが、島根県・出雲へ向かう途中で、ちょっと立ち寄って日帰りする人が多く、真庭市にとっては、蒜山高原を滞在型の目的地に育てるのが課題でした。観光の目玉に、東京・晴海に建つ期限付きの建築物の移築計画が議論されていました。建築家の隈研吾氏が設計監修し、真庭市の木材から作ったCLTという資材を用いたパビリオンの里帰りです。その施設をどのように活用するかを真庭市がちょうど検討していたタイミングであったため、わたしの提案も聞いてもらえることとなり、阪急阪神百貨店と真庭市の協業がスタートしました。

 

ーー岡山県真庭市について教えてください

 

佐藤さん:鳥取県との県境に位置し、蒜山高原などの豊かな自然に恵まれた真庭市は、再生可能エネルギーの先進地域です。林業・木材産業が盛んで、2015年から、これまで使われていなかった間伐材や廃棄処理していた製材時の端材などを、木質バイオマス発電所の燃料として活用してきました。植物は光合成で大気中から二酸化炭素を吸収して育つので、この燃料から排出される二酸化炭素は「新たに増加するものではない」とされます。脱炭素、カーボンニュートラルと呼ばれる取り組みです。ほかにも、生ゴミをメタン発酵させて農業用肥料に変えるなど、ゴミを資源に変え、資源とお金の地域循環を作っています。

 

真庭市の木質バイオマス発電所

中島さん:真庭市は、2018年に内閣府から「SDGs未来都市」と認定され、翌年には環境省の「地域循環共生圏(Local SDGs)」のモデルに選ばれています。2022年4月には環境省から「脱炭素先行地域」にも選定されました。

 

GREENable HIRUZENの活動

―― 「GREENable HIRUZEN」について教えてください

 

小栗さん:行政・地域・ファッション・建築といった多様なプレイヤーがつながり、うまれた名称です。サステナブルの価値を人々に広めるコミュニティ・ブランド「GREENable」が立ち上がり、発信拠点施設の「GREENable HIRUZEN」がオープンしました。

 

ーー建物が情報発信拠点ということですか?

 

中島さん:建物はすべて隈研吾さんの設計です。自然との一体化、自然との共生をテーマに、「どうやったら自然の中に人が戻ることができるか」を考えて設計されたそうです。施設には、このエリアを象徴するパビリオンである「風の葉」のほか、サステナブルを実践できるグッズを販売するショップ、ビジターセンター、芸術文化を発信する真庭市蒜山ミュージアム、体験プログラムを提供するサイクリングセンターがあります。

 

佐藤さん:ショップでは、阪急阪神百貨店と真庭市が「GREENable」のコンセプトに共感する世界中の企業や地域の生産者と連携して、誰でも気軽に取り入れることができるサステナブルなコンテンツやライフスタイルを提案しています。

 

●公式サイト
https://greenable-hiruzen.co.jp/
●インスタグラム
@greenable_hrzn

 

 

――真庭市に出向を出すことになった経緯は?

 

佐藤さん:「GREENable」の取り組みを本格的に稼働させるため、社内で2021年2月に推進メンバー2人の公募があり、約20人が手を挙げたなかから、わたしと小栗さんが選ばれました。1人は、真庭市に拠点を設けて活動するメンバーになることが決まっていて、わたしは家族と移住して出向することを希望しました。当時、子どもが2歳で、自然の中で子育てしたいという思いがかなえられました。

 

――出向の予定期間は?

 

佐藤さん:およそ2年間の予定です。

広がる「GREENable」への共感

―― 関西でも、取り組みを体感できますか?

 

中島さん:真庭産の木材を使った再利用・再生可能な什器(じゅうき)の活用や、商品の販売イベントを百貨店で行っています。2022年2月には阪神梅田本店7階で催事「めぐる つながる 発酵 GREENable」を開催し、真庭市の産品を届けました。

 

小栗さん:イベントでは酒蔵、チーズ工房、ワイナリーなど、異なるカテゴリーの発酵事業者が結成した団体「まにわ発酵's」とタイアップ。味噌、日本酒、ワインなどの発酵食品のほか、オーガニック石けん、木工製品などの販売やワークショップの開催を通して、真庭市や「GREENable」の魅力をPRしました。
 

イベント「めぐる つながる 発酵 GREENable」で紹介した真庭市の産品

前田さん:今年4月6日から19日まで、阪神梅田本店の3階イベントテラスで「GREENable HIRUZEN」のパートナー企業でもある人気シューズブランド「Offen(オッフェン)」のポップアップショップを開催しました。環境に配慮した素材を使った同社製品とともに、「GREENable HIRUZEN」の雑貨アイテムが登場しました。

 

●「GREENable HIRUZEN」オンラインストアでも購入できます。
https://greenable-hiruzen.stores.jp/
 

「GREENable HIRUZEN」のパートナー企業「Offen(オッフェン)」のポップアップショップ

――今後の予定を教えてください

 

小栗さん:阪急阪神百貨店では、担当者以外にも真庭市や蒜山高原に魅了される人が増えつつあります。社内外、本職の業務領域を超えた取り組みも始まっています。商品を単に仕入れて売るだけでなく、モノづくりの段階から関与するおもしろさ、作り手の気持ちに触れる喜びが伝播し始めているのだと感じます。

 

前田さん:人と自然は関わりすぎても、関わらなさすぎても、よい関係を築けません。ちょうどいい距離感を「GREENable」は提唱していきたい。今後は、真庭市の「GREENable HIRUZEN」で実績を積み重ね、それを踏まえて「国立公園オフィシャルパートナー」として「GREENable」ブランドを全国へ広げていくのが目標です。

「国立公園オフィシャルパートナー」が使用することができるロゴ