「子どもLOBBY」入り口に立つ、H2O商業開発営業推進室の湊隆介さん(左)とテナント部の佐藤貴哉さん

エイチ・ツー・オー(H2O) 商業開発が運営するイズミヤショッピングセンター(以下「SC」)門真店(大阪府門真市)3階に、公民連携子どもの居場所「子どもLOBBY(ロビー)」があります。地域の小中学生が放課後に宿題をしたり、土曜日に遊び場所として使ったり、日曜日に職業体験をしたりするこの場所は、公民が連携して開設しています。H2O商業開発はこのスペースを門真市に無償で提供しているほか、職業体験プログラムも実施しました。担当者たちの思いをお届けします。

(編集部)
 

子どもに居場所を提供する取り組み

2016年に大阪府が実施した「子どもの生活に関する実態調査」では、門真市の相対的貧困率が大阪府内平均14.9%に比べ16.4%と高い結果となり、これを受けて2017年10月より門真市では、子どもの貧困対策として「門真市子どもの未来応援ネットワーク事業」が始まりました。その中で、貧困の連鎖を断ち切るにはどうしたらいいのか検討し、一つの方法として家庭でも学校でもない第三の居場所を提供する取り組みを実施することにしたのです。その思いが結実して誕生したのが「子どもLOBBY」です。H2O商業開発のテナント部の佐藤貴哉さんと営業推進室の湊隆介さんに聞きました。


門真市の「子どもLOBBY」ホームページ

 

 

<子どもLOBBY>

住所 大阪府門真市新橋町3-1-101 イズミヤSC門真店3階
運営者 門真市

協力

エイチ・ツー・オー 商業開発、ダイドードリンコ、IKEA鶴浜、門真ロータリークラブなど50社・団体

事業内容 子どもの居場所、キャリア教育イベント、非認知能力向上プログラムなど
スタート日 2021年6月26日

――「子どもLOBBY」の広さや設備は?

 

佐藤さん:3階全体は1,900平方メートルがあり、うち54平方メートルを「子どもLOBBY」に提供しています。「子どもLOBBY」内には、相談室やくつろぎスペースがあり、遊びのスペース部には、子どもたちが月、火、木、金曜日の午後3時~5時、土曜日は午後1時~5時の間は自由に出入りできます。子育て支援を専門とするNPO法人の職員が駐在されているので、保護者や児童の相談を受けることもできます。日曜日には子どもたちが職業体験などをできるキャリア教育イベントも実施されていて、最近の例では、無印良品さんが、商品企画などの仕事を体験するプログラムをされ、約20人が参加しました。

イズミヤSC門真店が入る「門真プラザ」。京阪電鉄と大阪モノレールの「門真市駅」下車すぐ

――子どもたちの利用状況は?

 

佐藤さん:門真市によると、初年度は緊急事態宣言などで閉館を余儀なくされた時期もありましたが、通常稼働できるようになってからは、子どもたちが毎日15人ほど利用してくれているそうです。商業施設のなかにあるので、立ち寄りやすいイメージが根付いたのだと思いました。

 

――場所を無償提供することになったいきさつは?

 

佐藤さん:当社が発足した2020年4月当時、イズミヤSC門真店は3階の1フロアが空いていて、活用方法を模索していました。ちょうどそのころ、地元行政との繋がりをつくる目的で、門真市が主催するフォーラムに顔を出した時に宮本一孝門真市長と直接お話しする機会があり、市が子どもの貧困問題に取り組んでいて、子どもに居場所を提供する事業を計画していることを知りました。SC内の空きスペースが活用できると思い、どのような取り組みができるのか、検討を始めたのです。

 

――無償に反対する声もあったのでは?

 

佐藤さん:3階を空きスペースのままにしておくことはもったいない、そして何より地域の未来を担う子どもたちの居場所をつくるという目的を念頭に社内検討を重ねた結果、2020年10月に、H2O商業開発と門真市が事業連携協定を結び、無償提供が実現しました。

 

湊さん:上層階ににぎわいをつくるということは、商業施設としてもメリットが大きいです。また地元に根を張った企業としてできることはやりたいという思いで取り組みを進めた結果、社内でも多くの関係者に認められる場所になりました。

 

――ほかの協力企業は?

 

佐藤さん:「子どもLOBBY」内の家具はIKEA鶴浜の提供で、大型のモニターは門真ロータリークラブに設置していただき、その他の家電などすべて、民間企業からの寄付によるものだそうです。

 

――行政にとってモデル事業ですね

 

佐藤さん:オープン前日の2021年6月25日に執り行われた記念式典には、宮本門真市長をはじめ、大阪府の吉村洋文知事も参加され、「公と民が協力した新しい支援の場。府も一緒に子供たちが可能性を追求できる社会を目指したい」と話しておられます。公民連携による子ども支援事業は珍しく、他の自治体から多くの見学者がこられていると、門真市から聞いています。

2021年6月25日、「子どもLOBBY」のオープン記念式典、左から2人目が吉村大阪府知事、中央が宮本門真市長

「海洋堂ホビーランド」との相乗効果

――同じフロアに「海洋堂ホビーランド」がありますね

 

湊さん:公民連携子どもの居場所「子どもLOBBY」のオープンと同日に、世界的なフィギュアやプラモデルのメーカーで門真市に本社を置く海洋堂さんが「海洋堂ホビーランド」を同じ3階にオープンされました。1万点以上の自社製品を展示並びに販売し、製作実演も見学できる施設です。フィギュアで世界的に有名なメーカーさんなので、大きな話題になりました。

 

――海洋堂さんの施設ができたいきさつは?

 

佐藤さん:海洋堂さんは滋賀と高知に同様の施設を開設しておられますが、門真市にある本社にも設置を計画されていたため、イズミヤSC門真店が近いこともありご案内したところ興味をもっていただきました。

 

イズミヤSC門真店3階の「海洋堂ホビーランド」入り口

「子どもLOBBY」の入り口近くにある海洋堂ホビーランドの恐竜像

「まちづくりが店づくり」が合言葉

――食品スーパーの職業体験プログラムも提供した?

 

湊さん:はい。今年の6月26日に、「子どもLOBBY」のキャリア教育プログラムとして、当社とイズミヤ社員によるスーパー体験プログラムも実施しました。40人あまりの応募がある中で、抽選で選ばれた10人の子どもが、参加してくださいました。

 

――どんな体験内容でしたか?

 

湊さん:食品スーパーにはどのような仕事があるのかを、「子どもLOBBY」内で学んでいただいた後に、1階にあるスーパーのイズミヤ門真店で実地体験をしていただきました。バックヤードの荷捌き場を見てもらって、バックヤードから店頭には一礼をして出ていくことも体験してもらい、レジで商品のバーコードを読み取って計算することも経験――食品スーパーの仕事の全体像を見てもらうことができました。

 

イズミヤ門真店でレジを体験する地元の小学生

――地域の活動に積極的に取り組んでいますね

 

湊さん:H2O商業開発では発足した2020年4月より各地域と連携したイベント等の実施に力を入れるとともに、2021年夏からは、「まちづくりが店づくり」を合言葉にしたプロジェクトもスタートしました。地元の「まち」が活性化していたら、お店もおのずとにぎわうと考えているからです。このプロジェクトでは単発のイベントにとどまらず、中長期的な視野で行政や地元企業・団体さんとの交流と協業を進めています。

 

――ほかに、門真ではどんな取り組みをしましたか?

 

湊さん:例えば昨年12月10日から3日間、門真市が実施した社会実験「FAct  Eat  Kadoma(ファクトイートカドマ)」に、イズミヤSC門真店とイズミヤ株式会社が運営するイズミヤ門真店も参加しました。門真市の強みであるFact(ものづくり)、Act(役者・アクション)Eat(食)が交わると、人々のコラボレーションが生まれ、人の流れが変わり、まちに新しい価値とイメージアップをもたらす――そんな“まちの未来予想図”を描き、エリアの活性化や今後のまちづくりを目指す実験でした。

 

――今後、門真店で計画していることは?

 

湊さん:今年8月末に、沿線の企業さんとタイアップした子どもさん向けのワークショップ(アップサイクルでアクセサリーを作る取り組み)や絵画募集を実施する予定です。当社SCを利用される子どもさんと地域の未来につながるような取り組みを、今後ともSC門真店に限らず、どんどん実施していきたいと考えています。