イズミヤSC河内長野店館長の岸上健さん(右)と副館長で地域連携担当の羽田修子さん

寝具や家電などの住居関連商品売り場だったイズミヤショッピングセンター(SC)河内長野店(大阪府河内長野市)の4階は、2021年4月、産学官が協力してまちづくりに取り組む「イズミヤ ゆいテラス 河内長野(以下、ゆいテラス)」に生まれ変わりました。窓からの光と内装の木材が、訪れる人を優しい気持ちにする場所です。市の社会福祉関係機関が集まり、市民が自由に使えるスペースがあり、月に1度は大きなイベントが開催されています。イズミヤSCを運営するエイチ・ツー・オー(H2O)商業開発(大阪市西成区)は、市に対して共益費のみで場所を提供するだけでなく、運営にも参画しています。担当者の声をお届けします。

(編集部)
 

駐車場の入り待ちができるイベントも

ゆいテラス内に事務所があるのは、「河内長野市社会福祉協議会」「かわちながのボランティア・市民活動センター」「障がい者就労支援B型事業所」のほか、市の歯科医師会や青年会議所など。市内の別々の場所にあったこれらの機関が商業施設内に集まったことで、社会福祉協議会などでは、相談に訪れる人が増えているそうです。セミナーや集まりに使えるフリースペース、自由に使えるテーブルや椅子が配置され、夏休み期間中は、朝から勉強している中高生の姿が見られました。イズミヤSC河内長野店館長の岸上健さん、副館長で地域との連携業務を担当している羽田修子さんに聞きました。

「イズミヤ ゆいテラス 河内長野」ホームページ

河内長野市の「イズミヤ ゆいテラス」紹介ページ

 

住所

大阪府河内長野市喜多町663 イズミヤショッピングセンター河内長野店4階

面積

2716平方メートル

オープン日

2021年4月3日

機能

○多世代の交流を生み出し、地域活動を支えるまちづくり支援
○河内長野市社会福祉協議会を中心とした地域福祉支援
○市民のボランティア活動を支える市民公益活動支援
○自習やテレワークに活用していただけるコーナーの設置

加賀田川から臨むイズミヤSC河内長野店。南海高野線・近鉄長野線「河内長野駅」から徒歩5分

――毎月開催されるのはどんなイベントですか?

 

岸上さん:4月には、ゆいテラス誕生1周年記念の「バースデーフェスティバル」と子どもたちがダンスを披露する「キッズダンスステージ」、5月は子ども向け「スケートボード無料体験教室」、6月は市内のボランティアサークルの発表会「つながりフェスタ」、7月は河内長野市と河内長野市教育委員会が主催する「えいご村のえんにち」という幼児と小学生向けの英語イベントが開催されました。


――どれくらいの人が集まるのですか?

羽田さん:7月の「えいご村えんにち」では、受け付けをしたお子様が781人、保護者をいれると1200人くらいになりました。6月の「つながりフェスタ」も1000人を超える参加があり、これだけ集まってくださると、213台分ある駐車場が満車になって、入庫待ちをお願いするほどです。「えいご村」は、小学校で教科「外国語」が始まる前年の2019年から河内長野市が取り組んでいる事業で、毎月、定期的に市内公共施設で開催されており、「えいご村のえんにち」などの大きなイベントも年3回開催されています。子どもたちがとても楽しみにしているイベントだと聞いております。

2022年7月24日「えいご村えんにち」

――ゆいテラスができる前のことを教えてください


岸上さん:わたしが転勤してきた2019年4月当時、4階は家電や寝具など、住居関連商品の売り場でしたが、採算が取れていませんでした。河内長野市とエイチ・ツー・オー リテイリングが「まちづくりに関する連携協定書」を締結したのはその年の6月。4階に地域まちづくり支援拠点を開設する方向で動き出しました。20年5月に4階を閉鎖し、11月から工事を開始したのですが、長くフロアを閉鎖したことから、お客様に「お店がなくなってしまうの?」と心配されました。

産学官で協力する面白さと意義

――民間、学校、行政による仕組みづくりのノウハウは?


羽田さん:産学官の関係者でつくる「参入団体連携会議」を、毎月第3木曜日に開催しています。毎回およそ25人が集まり、ゆいテラスの活性化について話し合います。議長は河内長野市の方が務め、関係者それぞれがイベントや仕組みのアイデアを出します。2021年4月3日のオープニング式典には、地元選出の国会議員や府会議員なども含めて約80人もの来賓があったそうです。商業施設の中に社会福祉関連の事務所を集めて、産学官が協力して運営するという仕組みは、珍しく、関心が高いのだと思います。

2021年4月3日 「イズミヤ ゆいテラス 河内長野」のオープニング式典

――商業施設とゆいテラスの運営に違いはありますか?


羽田さん:わたしはゆいテラスオープンの直後に、和歌山店から異動してきたのですが、ゆいテラスに関する仕事は通常の商業施設運営の仕事とは異なっています。行政の方々、外部の方々とコミュニケーションを密に取る必要があるためです。今年5月、参入団体のひとつである桃山学院大学の学生が、ゆいテラスでの多様なくつろぎ方を生み出せないかと知恵を絞り、「本を置いてみよう!」というプロジェクトを企画しました。本のコーナーの名前は「ゆいブックス」。お勧めの本を誰もが持ち寄ることができ、感想を寄せることができるコーナーです。大学生も「ゆいテラス研究員」と称して定期的に活動しています。


ゆいテラスがイズミヤSCの館内にあるので、お客様にとっては区別がつきません。お客様からゆいテラスに関して寄せられた相談や問題は、関係者と話し合って対応しなければならず、そのあたりは細かいノウハウが必要だと思います。
 

2022年5月に設置された推薦図書コーナー「ゆいブックス」。本の上に感想文が貼り付けられています

――イベントにイズミヤSCはどのように参加しますか?

 

羽田さん:開催までの調整役、当日の館運営がスムーズになるよう務めるのはもちろん、H2O商業開発としても参加します。「えいご村」開催時には、イズミヤのキャラクターであるお猿の「ええもんキー」の塗り絵コーナーや電車を走らせる「プラレール」コーナーを設けました。館内1階にある、H2Oリテイリンググループの食品スーパー「イズミヤ」も、焼きそばやお好み焼きなどをゆいテラス内で販売しました。

 

――ゆいテラスは館全体によい影響がありますか?


岸上さん:通常お店をよく利用していただいているのは、高度成長時代に開発された近辺の住宅地に住むお客様で、70%以上が60歳以上の高齢層です。お子様向けのイベントが開催されることで、イズミヤファンの子どもたちが増え、お客様の世代の多様化への期待が大きいです。新型コロナウイルスによる商業施設の規制が緩和された2021年9月以降は、来館者数が前年同月比で102%が続き、5つあった館内のテナント空き区画も、2つが埋まりました。ゆいテラス効果だと感じます。

「行く場所ができた」というお客様の喜び

――これまでに聞いたお客様の感想などは?


羽田さん:ゆいテラスができたばかりのころ、チラシの整理をしていたとき、わざわざ年配の女性のお客様に呼び止められ、「行く場所ができてうれしいわ。ありがとう」と声をかけていただきました。

 

岸上さん:昨年9月に正面玄関を塗装しなおしたとき、高齢の男性のお客様から「きれいにしてくれてありがとう」とのお声をいただき、「自分のお店」だと思ってくださっているからこそだと感じました。お客様の来館動機は、商品だけではなく、ゆいテラスでのイベントだったり、ゆいテラスにある福祉関連事務所だったり、「自分のお店」と思える場所なのだと、改めて感じた瞬間でした。

 

――ゆいテラス内で働く関係者の交流などの効果は?


岸上さん:入居している河内長野青年会議所が、河内長野市社会福祉協議会と今年2月災害ボランティア協定を結び、ゆいテラス内で調印式を行いました。社会福祉協議会で約60人、各団体に2~3人働いておられ、お昼時などに食品スーパー「イズミヤ」をご利用くださるおかげでデリカ販売も好調です。

 

――新しい取り組みはありますか?


羽田さん:7月25日、イズミヤSC河内長野店を発着点とする、電動カートによる交通システムの運用実験が始まりました。私道での使用が多い電動カートを公道で走らせ、地域交通に役立てることで、高齢者の健康などにどんな効果があるかを測る取り組みです。河内長野市、千葉大学、ヤマハ発動機とともに実験に参画し、発着場と充電場所の提供をしています。来年1月21日までの実験で、2台、2ルートを運行しています。7人乗りで、時間帯によっては満員になるほど人気です。

 

――実験期間終了後は?


岸上さん:電動カートは、悪天候では運行できず、有料で続けるには運行免許が必要になるなど、課題はたくさんあるので、先のことは未定です。カートに乗ってゆいテラスに来て、お買い物をして帰ってくださるお客様を見ると、いろいろな工夫を続けていくことが大切なのだと感じています。

イズミヤSC河内長野店に到着した実証実験中の電動カートによる交通システム
 

2022年7月29日発表のニュースリリース