デジタルをはじめさまざまな改革を推進する大井開発宿泊部の髙橋世理子課長(右)と小泉真里江さん

「アワーズイン阪急」(東京都品川区大井)は、株式会社大井開発が運営するエイチ・ツー・オー リテイリンググループ唯一のホテルです。2021年6月に開業50周年を迎えました。JR大井町駅前という好立地とリーズナブルな価格で、かつては平均稼働率は90%を超える人気ホテルでした。ところが新型コロナウイルスの影響が大きく、20年5月の稼働率は10%を下回るまでに減少しました。


しかし、コロナ禍が過ぎるのをただ待っていたわけではありません。稼働率が高すぎるゆえに後回しになっていたデジタル改革を一気に進めました。ウェブサイトの刷新、宿泊予約システムの入れ替え、客室プランの新設、SNS広告など。この2年の取り組みを推進した担当者の声をお届けします。
                             

(編集部)

品川から1駅、大井町駅前の好立地

「アワーズイン阪急」は、東海道新幹線が停車する品川駅から1駅、JR大井町駅の目の前にあります。東京ビッグサイト(東京国際展示場)があるりんかい線国際展示場駅まで10分、羽田空港まで28分と東京出張に大変便利です。館内にスーパー銭湯があるのも特長で、22年11月時点のシングル料金は5000円(税込み、ウェブ会員最安価格)からというお手ごろさ。好立地なうえにリーズナブルで、地元大井町のお客様からも愛される人気のホテルでした。ところがコロナ禍で環境が一変。そんなピンチの状況を変革のチャンスととらえ、奮闘してきた宿泊部の髙橋世理子課長と小泉真里江さんにお話を聞きました。


「アワーズイン阪急」ホームページ

「アワーズイン阪急」「阪急百貨店 大井食品館」などが入る商業施設「阪急大井町ガーデン」の外観

――新型コロナウイルスの影響はどうでしたか?

 

髙橋さん:「アワーズイン阪急」は、シングル館とツイン館の2棟で、シングルルームが1100室、ツインルームは288室あります。コロナ前までの20年間、平均の客室稼働率は90%を超えていました。新型コロナウイルス感染症が20年2月中旬から急拡大したことから、19年度は80%台へと落ち、20年度は20%を下回りました。21年度は東京五輪関係者の宿泊特需があったものの、30%を下回る苦しい状況が続きました。

――どんな対策を打たれたのでしょうか?

 

髙橋さん:20年3月ごろは「少しの我慢かな」と思っていたのですが、まさかここまで長引くとは……。実は稼働率の高いときは、公式サイトや宿泊予約システムの改修にはサービス停止期間が生じるため、手をつけられていませんでした。予約の減少をきっかけに、社内の意識が高まり、デジタル改革に一気に取り組むことができました。

デジタル改革でWEB予約が急増!

――具体的な取り組み内容を教えてください

 

髙橋さん:まず、ホテルの公式サイトを21年6月に一新しました。それまでは、パソコン(PC)用サイトとスマートフォン(スマホ)用サイトが別々でしたが、お客様の画面サイズに合わせて表示できる「レスポンシブデザイン」に変更、宿泊予約を管理するホテル管理システムも入れ替えました。以前はシステムが古く、宿泊プランの表示に写真を掲載できず、文字数に制限がありました。そのため、いろいろな客室プランを提案できない、会員登録をしないと予約ができないなど、柔軟な運用が困難でした。システムの一新で、かつては10タップ(またはクリック)が必要だった予約手続きが、いまは5つで済むようになりました。お客様のご不便も軽減できていると思います。

現在の「アワーズイン阪急」公式サイト PCとスマホでの表示画面

また、楽天トラベルやエクスペディアといったOTA(オンライン・トラベルエージェント)経由の予約は、コロナ前の20%から50%程度となりました。公式サイトでの予約が30~40%、残りが店舗をもつ旅行代理店からの予約へと大きく変化しました。

 

――ほかにデジタル化を進めたことは?

 

髙橋さん:省力化のため、セルフチェックイン機も増やしました。20年2月には3台でしたが、21年5月には10台に。デジタル化はもちろん必須ですが、省力化による余力を、お越しいただくお客様への価値あるサービスとして還元していくことが、目指すべきゴールだと考えています。

無人でチェックインと精算ができるカウンター

客室プランも多彩に

――デジタル化以外に取り組んだことは?


小泉さん: 商品プラン改革も行いました。例えばワンドリンクチケット付きや女性専用プランなどです。


ワンドリンクチケット付きプランは、22年6月にスタートしました。館内にある提携飲食店7店舗で利用できるチケット付きで、「父の日プラン」として販売したところ人気に。7、8月にも夏限定プランとして再登場し、9月からは、客室グレードアッププランとして販売中です。

 

髙橋さん:女性お一人でも安心な女性フロアが3つ、135室あるという特長を生かしたプランは、館内のスーパー銭湯の温浴券や岩盤浴券などが付き、ご好評をいただいています。
こうした新プランは、公式インスタグラムやプレスリリースで積極的に発信しています。実は、コロナ前は広告、宣伝をまったくしていませんでしたので、これも大きな変化だといえます。

宿泊商品を紹介するPR用イメージ画像

リピーター獲得大作戦

――最近の動向はいかがですか?


髙橋さん:22年7月から新型コロナ感染の第7波が広がりました。しかし消費者自身の感染対策の意識も進み、政府も行動制限を行わないことから、「アワーズイン阪急」の稼働率は少しずつ回復してきています。7月の稼働率は60%を上回り、9月は70%強、10月には85%を超えてきました。もともと立地がよくてリーズナブル。加えて、お客様目線の改革が進んだことも稼働率の急回復に影響していると考えます。改革の取り組みはこれからも続けていく方針です。

 

――これからの課題や展望について教えてください

 

髙橋さん:今後の課題は、ホテルの公式サイトでの直接予約を増やすことです。OTAで予約・宿泊していただいたお客様に向けて、館内エレベーターに告知ポスターを貼ったり、公式サイト予約に特典を付けたりといった取り組みを展開しています。OTA比較サイトや検索サイトでの一覧比較機能でも、公式サイトのほうが少しでも安い料金をご掲示できるよう、こまかく設定しています。

 

小泉さん:現在5万人を超えるウェブ会員のうち、コロナの感染拡大以降にご登録くださった方は1万5千人程度です。この登録者数をどこまで大きくできるかがポイントだと思っています。そのために、ウェブ会員登録でもれなく割引クーポンをプレゼント、会員限定プランの提案、メールマガジンの登録で誕生月クーポンやお得情報をお届けするなど、さまざまな特典を用意しています。

 

髙橋さん:「アワーズイン阪急」は、シングル館と複合施設の1期棟が11年3月に建て替えオープン、ツイン館の2期棟は14年3月に完成しました。そろそろ内装の大改装を検討する時期で、特に女性専用室が多い特色を生かしてなにかできないかと、スタッフで企画をしはじめています。
これからも、お客様のために変わり続ける「アワーズイン阪急」にご期待いただけたらと思います。