阪急阪神百貨店フード新規事業開発部プラットファーム事業担当の細見圭祐さん(右)と加藤由佳さん

「作り手とお客様をつなぐ架け橋に」という思いのもと、2019年10月からスタートした阪急うめだ本店食品売り場の取り組み「Hankyu PLATFARM(プラットファーム) MARKET(マーケット)」。持続可能な食の未来を実現する「地域創生」「文化継承」「環境保全」の3つの理念を軸に、地下2階食品売り場で毎月5日間、作り手の思いが詰まったおいしいものを紹介するイベントから始まり、2022年1月には常設のミニショップをオープンしました。産地と深くかかわる担当者の声をお届けします。                              

(編集部)

食の未来を考える「Hankyu PLATFARM MARKET」

地域活性化を目指す農家の作物、古くから受け継がれてきた伝統的な漁法で水揚げされた魚介類、環境に配慮した飼料で飼育された牛・豚・鶏。「Hankyu PLATFARM MARKET」は、そういった生産量が限られていたり、販路の確保が難しかったり、あまり市場に流通していない商品とその背景にある生産者の思いを発信する「都市・屋内型」のファーマーズマーケットです。これまでに延べ約600の生産者の産品を販売しました。阪急阪神百貨店フード新規事業開発部プラットファーム事業担当の細見圭祐さんと加藤由佳さんに聞きました。

「Hankyu PLATFARM MARKET」のイメージイラスト。産地とお客様をつなぐ思いが込められています

――「Hankyu PLATFARM MARKET」の名前の由来は?

 

細見さん:PLATFARMは、FARM(農場・牧場)とPLATFORM(基盤・土台)を組み合わせた造語です。さらに、“ぷらっと”気楽に立ち寄ってもらえる場所でありたいという思いも込めています。

――「Hankyu PLATFARM MARKET」を始めたきっかけは?

 

細見さん:商品部チームが2018年、海外視察でアメリカ・サンフランシスコを訪れ、農産物を生産者が直販するファーマーズマーケットを見て感銘を受けたことがきっかけです。ちょうど、阪急うめだ本店食品売り場は、地下2階をどう活性化していくかという課題を抱えていたときでしたので、生産者とお客様が強くつながっている様子を見て、オンラインでも商品が買える時代だからこそ、“リアルなコミュニケーションの価値”を提案すべきだと考えました。

――お客様からはどんな声が?

 

加藤さん:「普段お目にかかれない商品に出会えるのは、とても楽しい」や、「今後もいろいろな生産者さんを応援したい」などのお声をいただいています。また生産者の方も「お客様と直接コミュニケーションを取りながら販売できて楽しい」と喜んでくださっています。お客様、生産者、店の、「三方良し」の大好評な取り組みです。

――初めから順調でしたか?

 

加藤さん:2019年10月からスタートしたのですが、半年ほどして新型コロナの影響を直接受けました。2020年4月から7月までは、お店全体の営業自粛要請があり、産地への出張もできなかったことから、毎月5日間のマーケットが開催できませんでした。「さあこれから認知度アップを図ろう!」と思ったタイミングだったので歯がゆかったです。
その分、2020年8月に再開することが決まったときには力が入りました。私は、生産者のバックストーリーを掲載する冊子媒体の制作担当として、さまざまな生産者さんのもとに取材に伺いました。大分県国東市では漁船に乗りながら漁業についての思いを知り、京都府・与謝野町では田植えに参加することで、肥料づくりからこだわった生産に取り組みながらお客様との継続的な関係性作りに取り組む米農家さんの心意気を感じ、そんな生産者の思いを媒体に掲載しました。

一年中、お客様をお迎えする環境の整備

――毎月のイベントから常設ミニショップにした理由は?

 

細見さん:「月に1度、5日間だけのイベントでは、生産者の思いを発信する取り組みとして、情報発信の面でも、販路の面でも不十分だ」という思いは、「Hankyu PLATFARM MARKET」担当者の中で、イベント開催を重ねるごとに膨らんでいきました。一部商品は、阪急阪神百貨店のオンラインストアでも取り扱っていましたが、それでは追いついていないと感じるようになりました。

 

リアル店舗を設ければ、「気に入った商品を好きな時に買いたい」というお客様のご要望にもお応えできます。こうした思いから、小規模でも常設売り場を誕生させようという動きになりました。

――常設化にあたり苦労した点は?

 

細見さん:手続きすべてに苦労しました。常設売り場の立ち上げ担当者に立候補したのですが、わたしにとってはじめての経験だったので分からないことだらけ。常設をつくると決めてからオープンまで約半年、試行錯誤しながらの作業でした。商品の見せ方から、仕入れ先の選定、納品方法などまで。先輩や取引先に助けられながら、全く新しい売り場をつくることをゼロから体験したことは大きな財産になりました。

――あちこちの産地を訪問するのは大変では?

 

加藤さん:実はもともとは土や虫が苦手でした。そういう意味では大変でしたが、仕事なのでそんなことも言っていられませんし、だんだんと耐性ができました。なにより、実際に産地を訪れないとわからないことが必ずあるので、「Hankyu PLATFARM MARKET」を実施するうえで、産地訪問は欠かすことができません。

 

細見さん:生産者さんとお会いし、生産活動の一部を体験させていただくことはとても楽しいです。でもそれは、収穫などの一番いいところを体験させていただいているだけですので、それだけで全てを分かったつもりになってはいけないと自戒しています。本当の意味でものづくりの苦労や思いを知ることは大変なことだと考えています。

阪急うめだ本店地下2階にある「Hankyu PLATFARM MARKET」売り場(2022年1月オープン当時の様子)

より広く、より密に、つながる、つなげていく

――ミニショップオープンからおよそ1年。振り返りを


細見さん:常連のお客様は増えてきましたが、まだまだ商品の魅力の伝え方を磨き上げていく必要があります。単に、背景やストーリーを紹介するだけでなく、実際に手に取って、お試しいただくにはどうしたらよいのか。販売する商品を変えるのではなく、表現の方法を変えてそれを実現しようとしています。

――お中元やお歳暮のギフトでも人気だそうですね


加藤さん:「Hankyu PLATFARM MARKET」の商品は2020年のお中元から、「阪急のギフトカタログ」に登場しています。2021年のお中元・お歳暮では巻頭で特集され、2022年のお中元・お歳暮では巻頭特集から飛び出し、別冊ギフトカタログとしてグレードアップしました。この別冊ギフトカタログは、私が企画・編集を行い、商品部と協力しながら作り上げました。お客様だけでなく、掲載した生産者の方からも好評で、「また載せてほしい」という声をいただいています。

――今後予定している取り組みは?


加藤さん:ひとつは阪急阪神百貨店全体でも取り組んでいるOMO(オンラインとオフラインの融合)です。店頭の限られた空間で提供できるモノ・コトには限りがあるので、オンラインにもっと展開していきたいと思っています。単なるECサイトの強化ではなく、コミュニケーションの場をオンライン上にもつくれないか――と。

 

店頭では、店頭ならでは、リアルならではの体験を提供する。オンラインでは、オンラインならではのつながり方ができる環境を整備し、作り手とお客様をより近い距離につなぐプラットフォームを目指します。手始めに、Instagramでの情報発信を強化します。最大60秒の動画を共有できる「リール機能」を積極的に活用し、これまでは接点が少ない20~30代前半の世代へのリーチを目指します。

 

細見さん:自治体との連携にも取り組んでいきます。これまでも生産者の方をご紹介いただくといった形でのお付き合いはありました。今後は、新たな特産品づくりを目指している自治体のテストマーケティングに協力するなど、より密な取り組みを進めます。「Hankyu PLATFARM MARKET」の産地への貢献は、より活性化し、より多角的になっていきます。

 

過去に開催していた5日間イベントの様子。