阪急泉南グリーンファーム社長の大島一夫さん(右)と口野(くちの)有規さん

阪急泉南グリーンファーム(大阪府泉南市)は2003年9月に設立された阪急百貨店(現・エイチ・ツー・オー リテイリング)のグループ 会社です。水菜やレタスなどの有機野菜を中心に栽培し、グループ内外に出荷しています。20年にわたって、安全・安心なおいしい野菜を追求してきた担当者の思いをお届けします。                      
(編集部)

何もかもゼロからの立ち上げ

大阪府泉南市に構えた自社農場は、同府泉南郡田尻町、和歌山市へと拡大し、3カ所の総面積は約66400平方メートルです。これは、阪神甲子園球場(総面積)の約1.7個分に相当します。従業員は12名。みんなで培ってきた独自の土づくりや栽培手法で、素材本来のおいしさが実感できる野菜を届けています。設立時から社長を務める大島一夫さんと、田尻農場を担当する口野(くちの)有規さんに聞きました。

 

「阪急泉南グリーンファーム」ホームページ
 

――なぜ百貨店が農業を始めたのですか?

 

大島さん:2000年代の初めは、食品業界が産地偽装などの問題で揺れる中、有機野菜の注目・需要が高まり出した時期でした。そこで、社内では、お客様に安全・安心なサラダ野菜を提供する新規事業の立ち上げを検討していました。食品売り場で働いていた私に突然辞令が下り、大変驚きました。人生が一変しましたね。

 

――どうやって農業を学びましたか?


大島さん:前例やマニュアルなどはまったくない手探り状態で、それは大変でした。近所の農家さんをお招きして教えていただいたり、勉強会に参加したりしながら学びました。

 

――どんな野菜を栽培していますか?


口野さん:水菜やレタスなどのサラダ野菜が中心です。世界情勢の影響で国産への切り替えが進むラディッシュにも挑戦し、主力商品になりつつあります。
 

 

泉南農場で栽培しているラディッシュ。担当の渡邊隆哉さん

口野さん:2022年秋からはグループの食品スーパーの要望を受け、小ネギの作付けも始めました。

ビニールハウスで育てた小ネギの苗を畑に移植する様子。和歌山農場の南出昭人さん(左)と小江恭史(おごうやすし)さん

――収穫した野菜はどこに出荷していますか?

大島さん:グループのイズミヤ、阪急オアシスなどでは、4~5種類のサラダ野菜をブレンドした「リーフミックス」を販売しています。小ネギも「カットネギ」として4月ごろには店頭に並ぶ予定です。

イズミヤ、阪急オアシスで販売している「リーフミックス」

口野さん:グループ外の製造・加工会社やレストランなどにも出荷しています。水菜やレタスは、大手コンビニエンスストアの西日本、中部エリアの店舗のサラダにも使用されています。うちの野菜は丈夫で長持ちするため、遠方にも配送できるのが強みなんですよ。

 

――道のりは順調でしたか?
 

大島さん:試行錯誤しながらもノウハウを身につけ、人や農地面積を増やして徐々に事業を拡大していきました。しかし、経営も順調に進むなか、2018年の台風21号で100棟あるビニールハウスのうち79棟が損壊する被害に見舞われました。創業以来最大の危機でしたが、従業員一丸となって乗り越えました。
 

口野さん:1年半かけて自力再建すると同時に、改良ハウスを短期間で建設する仕組みを構築しました。私は、当時担当していた和歌山農場でハウス拡張を進めました。
 

和歌山農場のビニールハウス

微生物を使った「健全な土づくり」

――独自の栽培方法について教えてください


大島さん:有用な微生物を使った堆肥(たいひ)を使っています。20年間培養し続けている酵母、乳酸菌、光合成細菌の3種類です。有機肥料に微生物、そのエサとなる米ぬか、もみ殻などを加えて攪拌(かくはん)します。設立当初から農薬や化学肥料に頼らない土づくりを続け、2004年には和歌山有機認証協会から「有機認証」を取得しました。また、過去には「なにわ農業賞」や「全国農業コンクール・大阪支局長賞」を受賞しました。

有機肥料に、微生物、米ぬか、野菜の残渣(ざんさ)などを攪拌(かくはん)する様子

――野菜の成長にはどんな効果が?


大島さん:当社では定期的に土壌分析を行い、土中の適度な養分量を計測しています。先日、不足した養分を補うため、通常畑には使わない備長炭の粉を試しにまいてみたところ、根が太く、葉がたくさん茂った水菜に成長しました。ハウス1棟あたりの収穫量が1.5倍になり、思った以上の効果でした。

収穫したばかりの新鮮な水菜

――味の特長は?


口野さん:有機肥料で栽培した野菜は、やや薄い緑色で、えぐ味が少ないのが特長です。生のままサラダでも、葉がしっかりしているので鍋料理でも、どちらでもおいしく召し上がっていただけます。

ひたむきに20年、そしてこれからも

――新しい取り組みなどはありますか?


大島さん:今は、春の収穫に向けて、小ネギの栽培を軌道に乗せることに注力しています。いつか、小ネギを使って製造会社様とのコラボ商品ができたら……と夢見ています。


――今後の抱負をお願いします


大島さん:20年もの間続けられてきたのは、やりきる力を培い成長を遂げてくれた従業員、変わらずお付き合いくださるお取引先様、そしてご協力くださる地域の方々など、皆さまのおかげだと感謝しています。
これからも、メンバーが永続的に働ける農場づくりを行っていきたいです。

 

口野さん:先輩方が確立してくださった基盤をもとに、次の若い世代にもしっかり引き継いでいきたいです。野菜の品質と味には絶対の自信があります。これからも誠実に取り組み、おいしい野菜をお届けしていきます。

収穫直前のビニールハウスの水菜