(左から)千里中央公園パークマネジメント株式会社 代表取締役社長 兼 エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社 経営企画室 オープンイノベーション推進部長 杉本良平さん、同部 公園事業担当 久保容子さん、同部 公園事業担当 部長 原田綾子さん

2023年3月30日、大阪府豊中市の千里中央公園に新施設「1OOORE SCENES」がオープンしました。エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社(以下、H2O)が代表を務める「千里中央公園パートナーズ」が、豊中市の「千里中央公園再整備にかかる活性化事業(以下、公園事業)」の事業者として同市と連携、協力会社や地域とともに整備を進めてきた新しい公園の施設です。新たな地域交流の拠点として期待されています。公園事業の担当者の声をお届けします。

(編集部)

オープン時にちょうど桜が見ごろを迎えた千里中央公園

新施設「1OOORE SCENES」に込めた思い

千里中央公園は1968年4月、日本で初めてのニュータウン「千里ニュータウン」の造成時に誕生しました(1972年4月に豊中市へ移管)。近年、市民のライフスタイルやニーズが多様化したことから、豊中市は公園の利用者に限らず、周辺地域にコミュニティをつくり、経済効果をもたらす魅力を備えた公園づくりを検討しました。
同市は民間の活力を導入する整備方針を決め、21年に事業者の公募を実施。11月にH2Oが代表を務め、株式会社ローソン、西日本電信電話株式会社(NTT 西日本)と構成する「千里中央公園パートナーズ」が選定されたのです。
なぜ、小売業を中心とするH2Oグループが公園づくりなのか――その理由や取り組み内容について、H2Oで公園事業を担う経営企画室オープンイノベーション推進部の杉本良平さん、原田綾子さんに聞きました。
 

2021年12月8日発表のニュースリリース

 

――まずは「1OOORE SCENES」について教えてください

 

杉本さん:「1OOORE SCENES」は、園内の地形や木々を生かし、旧公園管理事務所をリノベーションしてつくった施設です。千里中央公園の魅力を再発見し、千里のくらしを彩る千の景色を公園利用者や地域の方々とつくりたいと名づけました。千里の「千=1000」は、数字のゼロではなくアルファベットの「O」で表します。これには、「Open:地域住民に開かれている」「Ordinary:毎日足を運びたくなる」「Organic:いまあるものを活用する」公園でありたいとの願いを込めています。

 

原田さん:施設は、イタリアンカフェ「SEN°C(センド)」、コミュニティスペース「LABO(ラボ)」、ミニショップ「LAWSON(ローソン)」などで構成されます。

 

――それぞれの見どころを教えてください


杉本さん:株式会社オペレーションファクトリーが手掛ける「SEN°C(センド)」のメニューには大阪府産の肉や野菜をふんだんに取り入れ、地産地消に貢献しています。「LAWSON(ローソン)」は、全国で2店舗目、関西初の「アバター(分身)」が接客する店です。アバターの操作は、別場所に勤務するスタッフが行います。さまざまな障害や制約によって店舗で働くのがむずかしい方々の働く機会の創出につながっています。

 

原田さん: コミュニティスペース「LABO(ラボ)」では、株式会社アーバンリサーチがプロデュースするピクニックグッズを販売しています。ミニキッチンがあり、食イベントなどのワークショップも開催できます。ここには、私たち H2Oのメンバーがパークコミュニケーターとして常駐し、地域の方々が公園でやってみたいことやお困りごとなどを聞きながら、一緒に公園活性化や公園づくりを考えていきます。


H2Oのニュースリリース『「1OOORE SCENES」の詳細について』

豊中市の「千里中央公園再整備について」紹介ホームページ
 

「1OOORE SCENES」外観、北大阪急行千里中央駅より徒歩約15分

――なぜH2Oが公園事業に進出を?

杉本さん: 小売り中心の企業グループが「なぜ?」と思われますよね。最近、全国で民間活力を生かした公園づくりの事例が見られます。当社のグループ理念は「地域住民への生活モデルの提供を通して、地域社会になくてはならない存在であり続けること」です。公園事業とは親和性が高いと考え、数年前から社内勉強会を立ち上げて研究していました。

 


原田さん: また、当社は「地域の一員として、地域社会の健全で持続的な発展に貢献する」を目的とする「サステナビリティ経営方針」を掲げています。公園は、その重点テーマの1つ「地域の絆を深める」の具現化にふさわしい場になり得ると判断しました。私たちは、公園で「稼ぐ」のでなく、公園の魅力を引き出し、地域の活性化を目指しています。

 

――千里中央公園に注目した理由は?

杉本さん: 豊中市は、パートナー企業 3 社にとってとても縁の深いまちだからです。H2Oは1970年3月、先の大阪万博の開幕前に、千里阪急を開業しました。以来、半世紀以上も地域を見守り、地域とともに成長・変化してきました。

また、ローソンにとっては、1975年6月に1号店「桜塚店」をオープンした、まさに創業の地です。NTT 西日本は 2020年、豊中市と「デジタル・ガバメントの実現に向けた連携協定」を結び、同社の経験やデジタルの技術力を生かして社会環境のさまざまな課題の解決や地域の活性化を進めています。

そういう訳で、この地に“思い”のある3社が力を合わせて、市への提案に臨みました。

2021年11月の千里阪急

オープン時のポスター 4日後の15日に「大阪万博(日本万国博覧会)」が開幕

――各社の役割分担は?


杉本さん:公園事業は、「収益施設の設置・運営」「公園活性化プログラムの企画・運営」「公園自動車駐車場の管理・運営」の3つで構成されます。収益施設「1OOORE SCENES」はおもにH2Oが運営しますが、ローソンはミニショップへの商品供給、NTT 西日本は ICT を活用したインフラ整備を行っています。公園活性化プログラムの企画・運営はH2Oが主導しつつ、豊中市、ローソン、NTT西日本ほか、協力企業8社も参画しています。

 

【構成企業3社・協力企業8社と各社の役割】

●印が構成企業 ☆印が協力企業

社名

本社、代表者名

役割

●エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社

大阪市北区、荒木直也社長

事業全体コーディネート、活性化事業、駐車場管理・運営

●株式会社ローソン

東京都品川区、竹増貞信社長

ミニショップ運営

● 西日本電信電話株式会社(NTT西日本)関西支店

大阪市都島区、小川成子関西支店長

ICT整備、QUINTBRIDGEと連携したイベント開催

☆株式会社アーバンリサーチ

大阪市西区、竹村幸造社長

公園グッズ企画商品化、菜園プロデュース

☆株式会社オペレーションファクトリー

大阪市西区、笠島明裕社長

カフェ運営

☆株式会社乃村工藝社

東京都港区、奥本清孝社長

デザイン・設計・施工

☆フクシマガリレイ株式会社

大阪市西淀川区、福島豪社長

キッチン設置、食のスタートアップ支援

☆株式会社MuFF

神戸市中央区、今津修平社長

デザイン・設計

☆株式会社NTT西日本アセット・プランニング

大阪市都島区、盛山弘一社長

建物リノベーション・賃貸

☆スタイレム瀧定大阪株式会社

大阪市浪速区、瀧隆太社長

ポリエステル繊維リサイクル培地

☆日本出版販売株式会社

東京都千代田区、奥村景二社長

本に関する企画・プロデュース

 

原田さん:私たち企業はあくまでもサポーターであり、主役は地域の方々です。一緒に話し合い、アイデアを出し合って進めていきます。

 

――各社はどのように公園事業を進めていきますか?

 

杉本さん:「1OOORE SCENES」が本格稼働するにあたり、H2Oは2023年2月に公園事業を担う「千里中央公園パークマネジメント株式会社」を立ち上げました。私が社長を務めます。各企業をはじめ、地域の方々や豊中市と話し合いを重ね、全体をコーディネートしながら、新施設の管理と公園全体の活性化を図っていきます。

行政から見た「1OOORE SCENES」

 

豊中市環境部公園みどり推進課の日高厚さん(左)、市村崚さんにもお話を聞きました。

――豊中市が目指した公園像とは?

 

日高さん:2020年3月、豊中市は「千里中央公園再整備基本計画」を発表しました。市民へのアンケート結果も掲載されています。千里中央公園に求めるテーマとしては「くつろぎ」「遊び」「活気」で、具体的には、自然散策路や屋根付き遊具広場などのほか、カフェ、レストランなどの飲食店や売店を望む声がたくさん上がりました。これまで、公園周辺には飲食店舗やコンビニエンスストアなど物販店舗がほとんどなく、市民が公園で滞在し、くつろげる場を求めていることがわかりました。


しかし一方で、地域の方々からは現存を望む声も少なくありませんでした。そこで、民間の意見をしっかりと取り入れながら、既存の良さを生かしたうえで、事業を前へ進めてきました。


――「千里中央公園パートナーズ」の事業プランはいかがでしたか?


市村さん: 千里中央公園パートナーズが応募者のなかで一番望ましく思えたのは、やはり「いまある公園の良さを生かす」という点でした。そして「地域住民とともにつくりあげる」との提案も、私たちの胸を打ちました。3社いずれも、市民がお客さまとして接する機会が多い企業。行政にはないノウハウやアイデアは、高く評価しています。

これから先も大切に愛され続ける場所へ

再びH2Oの2人に今後の展望を聞きます。

 

――「1OOORE SCENES」には地域の方々の声がどのように生かされていますか?

 

原田さん: 2022年7月からは地域の方々を対象にワークショップを全6回実施し、公園のあり方について考えを深めました。さらに、2022年10月から 2023年2月にかけて、ワークショップ「みんなでつくる千里中央公園【企画・実践編】」を開催し、公園を楽しむための企画を検討しました。地域の皆さんが考えた4つの企画は、4月2日にご自身たちがお披露目し、参加者と一緒にイベントを楽しみました。

コミュニティスペース「LABO(ラボ)」は、ワークショップで見つけた「公園の色」で彩られています

杉本さん: 公園事業は、H2Oグループのサステナビリティ経営方針のコア事業と位置付けられています。しかし、持ち株会社H2Oの社会貢献活動に留まることなく、20年間継続する事業として、しっかりと独り立ちさせていきたいです。


原田さん: 地域の方々と一緒に、どんどんイベントを企画・実施していきますので、たくさんの方々に参画していただきたいですね。そして、千里中央公園を、豊かな自然のなかで人々が交流し、地域ににぎわいをもたらす場として成長させていきたいです。