株式会社阪急ベーカリー商品部商品開発課の横井さゆりさん(左)と宮下加奈子さん

株式会社阪急ベーカリーは、1927年に阪急電鉄の製菓部として創業した約100年の歴史を持つ会社です。その長きにわたり蓄積した製パン技術で、「食卓に広がる『やさしい時間』」をコンセプトに、エイチ・ツー・オー リテイリンググループで唯一のパン事業を営んでいます。日々、よりおいしい、より愛されるパンを探求する担当者の声をお届けします。                            

(編集部)

毎月テーマを変えて新作をお届け

阪急ベーカリーでは、専門店として、「ブーランジェリーアン」「阪急ベーカリー&カフェ」「フレッズカフェ」を展開し、それぞれで毎月テーマに沿った新作のパンを5品前後発売しています。テーマは、「柑橘(かんきつ)」「抹茶」などの素材から、「北海道」「夏祭り」などの地域や季節のイベントまでさまざまです。また、卸売業として、高槻工場で製造した冷凍パン生地をグループ内・外、全国のスーパーマーケットや外食産業の取引先に納品しています。商品部商品開発課の横井さゆりさんと宮下加奈子さんに聞きました。

「阪急ベーカリー&カフェ」の2023年7月の新作のテーマは「夏祭り」

――まずはお二人のご担当を教えてください

 

横井さん:粉から生地を仕込み、職人の手で成形して焼き上げるスクラッチ部門(「ブーランジェリーアン」「フレッズカフェ」)の商品開発を担当しています。開発部門に携わって10年ほどです。

 

宮下さん:私は、機械化した生産ラインで大量生産が可能な冷凍生地部門(「阪急ベーカリー」や外部への卸)の担当です。商品開発歴は約2年です。

――率直に、毎月多くの新作を出すのは大変ではありませんか?

 

横井さん:もちろん大変なこともありますよ。今回こそ何もアイデアが出ないのではないかと、なかなか寝付けないときもあったりします(笑)

――そうですよね。それでも毎月新作を出すのはなぜなのでしょうか?

 

宮下さん:お客さまに飽きられない、鮮度のある売り場を保つためです。例えば食品スーパー内の店舗だと、毎日来店される方も少なくなく、月に1回は新しいものを置かないと目に留まらなくなってしまいます。

新作パンができるまで

――新作商品は発売のどれくらい前から考え始めるんですか?

 

横井さん:発売の4、5カ月前の会議でテーマを決めます。それからテーマに合わせて商品の試作を重ね、隔週開催する新作開発の会議に提出します。

――試作というと、職人さんにイメージを伝えて作ってもらうのでしょうか?

 

宮下さん:いえいえ、私たち自身が手作業で一つずつ作ります。

 

横井さん:開発のメンバーは、パン製造の知識・技術を持ち、全員製造のプロでもあるんです。

――試作品が会議で承認された後は、すぐ店頭に並ぶんですか?

 

横井さん:スクラッチ部門では会議後、まず工場で生産できるようにレシピをマニュアル化し、品質管理部門にチェックしてもらいます。チェックが済んだレシピを、発売前月の月初めから中旬には工場へ共有して、実際に製造の練習をしてもらいます。工場で作られたパンの仕上がりを商品部でチェックしながら、レシピの微調整を行い、翌月初めに発売する流れです。

 

宮下さん:冷凍生地部門は、会議にかける時点の試作パンは手作業で作っているので、会議を通るとまず、それが機械でも作れるかを製造チームと一緒に確認します。焼き上げまで全ての工程のテストを行い、出来上がったパンは営業担当者のチェックを受けます。そこでOKが出たら、ようやくレシピのマニュアル化に進みます。

――この流れが1カ月ごとにやってくるわけですね。

 

横井さん:はい。場合によっては2、3カ月分を同時並行で考えないといけないときもあります。

パンを試作するお二人

パン作りへの思いとこれから

――日々新作のアイデアを出し続けるお二人ですが、ずっとパンについて考えているのでしょうか


横井さん:そうですね。パンだけではなく「食」について幅広く考えているイメージです。元々食べ歩きが好きなので、休みの日はいろいろな場所に出かけておいしいものをチェックしたり、食べたりしています。そこからひらめくこともあるので、普段の生活が自然とパン作りにつながっている感じではあるかもしれません。

 

宮下さん:私の場合、他のパン屋さんを見に行ったり、展示会に訪れたりしてアイデアを探すことはありますが、休みの日は切り替えて、思いっきり遊んで頭をリフレッシュさせています!

――これまで多くのパンを開発されてきた中で、特に気に入っているパン、思い入れのあるパンを教えてください


横井さん:自分を変えてくれたという意味で、2022年から始めたフードロス削減を考えたパン作りの取り組みです。2023年6月には、規格外で廃棄される丹波黒枝豆を使った「丹波黒枝豆のフォカッチャ」を兵庫県立大学の学生さんたちと共同開発しました。企画を通して、メーカーさんから提案された素材ではなく、自分が実際に農園に訪れて仕入れた食材を使うという考えが新たにできて、自分の幅を広げるキッカケになりました。

 

宮下さん:2022年の11月に開発した「チョコブール」や「チョコホイップサンド」です。チョコチップを混ぜたチョコレート味の生地で、その他にもこの生地を使ってさまざまな商品を考えました。新作の販売期間は基本的に2カ月で、売れ行きが良ければ延長し、最終的には定番化されます。この商品は、今でも販売が続いていて、これまで私が作ったものの中で今一番定番化に近いんです! ぜひこのまま定番化してほしいです。

――販売期間が短いんですね


宮下さん:はい。苦労して考えた商品の多くが2カ月で販売終了してしまうのは正直寂しいです。だからこそ、定番化したときの喜びもひとしおなんです。

――パンを開発する上で心掛けているポイントを教えてください


宮下さん:当然ですが、根底にあるのは「おいしいパンを作る」。その上で、今までの商品と同じ見た目や味にならないように、また、店舗スタッフなど初心者も作りやすいように、と意識しています。冷凍生地のパンは、機械製造が前提なので、ある程度均一化されてしまうのですが、それでも自分のこだわりを残すようにしています。

 

横井さん:自分自身がときめくかどうかを大事にしています。(商品部は)たくさんの意見を聞き、それに左右されがちな部署だからこそ、自分の中の価値観をしっかりと定め、自分が一番おいしいと思える、ときめけるものを探求しています。

――最後に、これからどんなことをしたいと思っていますか?


横井さん:会社の統合でカフェ事業が拡大したので、パンだけでなく飲料やお菓子の勉強もしていきたいです。また、地域に眠っているこだわりの食材を見つけ出し、それを生かしたパンも作りたいです。

※株式会社阪急ベーカリーは2021年にグループ内の株式会社阪急B&Cプランニング、株式会社阪急フレッズと経営統合しました

 

宮下さん:これからもお客さまが「おいしい」と笑顔になるパンを作りたいです。新しいものを作るにはとにかく挑戦を繰り返すしかありません。たくさん試作して、ヒット商品を生み出してみせます!

「ブーランジェリーアン」丹波黒枝豆のフォカッチャ(税込み)454円

左:「阪急ベーカリー&カフェ」チョコブール(持ち帰り税込み)172円、右:「阪急ベーカリー&カフェ」チョコホイップサンド(持ち帰り税込み)151円