阪急百貨店吹奏楽団事務局の皆さん (左から)会計・庶務 西田舞子さん、マネージャー 西脇裕之さん、団長 寄川博之さん、マネージャー 竹内誠さん
阪急百貨店吹奏楽団はその名の通り、百貨店の社員を中心に構成された社会人吹奏楽団です。1960年の結成以来、国内最大級のコンクールで20回以上金賞に輝くなどの実力を誇ります。
そんな吹奏楽団が、演奏会やセレモニー演奏など従来の活動に加え、最近は地域貢献という新たな一歩を踏み出しました。その経緯や取り組みへの思いなど、担当者の声をお届けします。
(編集部)
阪急百貨店吹奏楽団は1960年、株式会社阪急百貨店(当時)の初代社長・清水雅が創設した阪急少年音楽隊の卒隊生を中心に、「職場に明るい音楽を」をモットーに設立されました。阪急うめだ本店の人気催事「英国フェア」やクリスマス、各種セレモニーなどで演奏を披露し、お客様に楽しんでいただいています。百貨店のイベント出演に加え、2019年にはグループ会社の株式会社阪急商業開発が運営する「洛北阪急スクエア」(京都市左京区)のオープニングセレモニーで演奏するなど、活動の幅も広がりを見せています。
現在活動する約50人のうち、9割は阪急阪神百貨店の社員ですが、最近ではグループ会社からの参加者もいます。また、メンバーの約3割が女性です。
連綿と続いてきた楽団の活動に、大きな壁として立ちはだかったのが2020年から本格化したコロナ禍です。その苦難をどのように乗り越えてきたのか……さらに、地域貢献への取り組みを始めた経緯や今後の方向性などについて、団長の寄川博之さんとマネージャーの西脇裕之さんに聞きました。
コンサートホールでのフル編成の演奏
――まずはお二人の役割について教えてください
西脇さん:寄川さんは2020年に楽団の団長に就任し4年目になります。私は、2021年10月からマネージャーとして、会社への活動報告や社外との企画交渉を担当しています。普段寄川さんは阪急阪神百貨店、私はエイチ・ツー・オー リテイリング(以下、H2O)で勤務しています。
――コロナ禍での活動状況はいかがでしたか?
西脇さん:寄川さんの団長就任早々、コロナ禍に直面しました。「ステイホーム」が声高に叫ばれ、会社で働くことさえ難しい状況で、集合練習もできなくなりました。おのずと対外的な活動もゼロに。メンバーは、それぞれの空き時間を使って、技術を落とさないように練習するので精一杯でした。
寄川さん:約2年間、活動ができませんでした。その間に、ゼロからのスタートのつもりで、団則や団員の登録規程など、楽団に関するさまざまなルールの見直しと整備を行いました。そもそも、今の時代に合った組織運営に変えていこうと強く意識していたからです。具体的には、規律を重んじた統制から、いわゆる「サーバントリーダーシップ」、リーダーがメンバーを支援し、成長を促すマネジメントです。トップダウンではなく、メンバーが自発的に動くことで楽団が運営できるよう心がけています。
――最近力を入れている地域貢献活動を始めた経緯を教えてください
寄川さん:コロナ禍が継続する中でしたが、今後の活動の再開に向けて会社と協議していたとき、山口俊比古社長から「企業価値を高めていくために、会社としても重点を置く『地域貢献』に活動の軸足を」との意見がありました。私もかねてから取り組んでみたいと考えていましたので、方向性が明確になりました。
西脇さん:その後、H2Oのサステナビリティ推進部に相談したところ、兵庫県の川西市・川辺郡猪名川町などがグループのサステナビリティ経営の重点地域だと知りました。ちょうど猪名川町で、グループの株式会社阪急オアシス(当時)が運営する商業施設「日生中央サピエ」がイベントを開催予定だと教わり、演奏会の企画を進めました。
――活動再開第1弾のイベントですね。いかがでしたか?
西脇さん:「日生中央サピエ」での演奏会で、やっと活動を再開することができました。2022年7月16日~18日の「夏の総力祭」での特設ステージです。私たちは17日に2回登場しました。午前はクラリネット5重奏、午後はトランペットなどの金管楽器5重奏と、それぞれ5人チームを編成し演奏しました。人前で披露するのは、実に約3年ぶりでした。
「日生中央サピエ」での演奏の様子
寄川さん:ステージのすぐ前には、感染拡大の防止のため十分な間隔を空けてイスが置かれましたが、開演前には満席に。立ち見のお客様もたくさんおられ、約30分間の演奏に耳を傾けていただきました。予定の曲目が終わるとすぐにアンコールを求める拍手を送ってくださり、メンバーは緊張の汗を拭きながら、もう1曲を披露しました。午前の演奏会では、猪名川町長の岡本信司さんもご覧になっていました。司会に促され、飛び入りで観客の皆さんへのご挨拶とともに、楽団に対しても喜びのお声を頂戴しました。地域貢献活動の意義を強く実感しました。
西脇さん:演奏会は、ご年配のお客様が多いのが印象的でした。リズムに合わせて手拍子を打ったり、じっと聴き入ったりと、思い思いにお楽しみいただきました。コロナ禍で遠出がしづらい世代にとって、移動のご負担が少ない地元での演奏会はまたとない機会だったのでしょうか。中には、この数年は自宅にこもりがちの方もいらっしゃったようです。「家族が演奏会のことを知って、今日は自ら出かけてくれました」と、イベントスタッフに涙ながらに伝えるお客様の姿もありました。
寄川さん:出演したメンバーも約3年ぶり、かつ、お客様と比較的近い距離での演奏だったため、緊張感と喜びいっぱいのステージとなりました。お客様の反応を目の当たりにし、これからの活動のあり方をあらためて考えるきっかけにもなりました。
西脇さん:長く活動が制限されていたため、私自身も、ようやくコンサートが開ける喜びを噛みしめながら見ていました。何よりも、楽しんでくださるお客様を身近に感じられて感慨ひとしおでした。
――最近の活動について教えてください
西脇さん:2023年の7月に、猪名川町立清陵中学校で生徒さんとその保護者の方に向けてコンサートの機会をいただきました。授業時間の6時間目をこのイベントにあててくださったのです。実は、校長先生が例の「日生中央サピエ」のイベントをご覧になっていたそうで、「ぜひ生徒にも聞かせたい」とお話をいただいたのがきっかけです。私たちにとっても、学校での演奏は初めての経験でした。
寄川さん:2022年4月に、2つの中学校が統合して清陵中学校となり、校歌も新たに作成されました。しかし校区が広くて遠方から通う生徒がいるため、吹奏楽部は活動の時間が1日30分と短く、顧問の先生いわく「まだ新しい校歌を演奏したことがない」とのことでした。そこで、アンコールで演奏させていただき、録音したCDをプレゼントしました。指揮は生徒会の副会長さんに務めてもらい、コンサート後には部活動で指導の時間をいただくなど、音楽を通じて生徒さんとの交流を深めることができました。
清陵中学校でのコンサートの様子
寄川さん:2023年10月1日に川西市で開催される「川西市民ステージ」にも出演します。2021年、コロナ禍で行動が制限され学校行事もなくなる中で、子どもたちに表現の場を用意し、地域に子どもたちの笑顔と元気を届けるために始まったと聞きます。公演は、ミュージカルとダンスコンサートの2部構成です。6歳から高校3年生までの子どもたち約30人が集まり、4月から本番に向けてダンスや歌のレッスンを受けています。プロ仕様の音響や照明のもと、プロのバレエダンサーらと一緒にひとつの舞台をつくり上げる……子どもたちにとっては本当にかけがえのない機会です。実行委員会が、3年目の今回はさらにダイナミックな「生の音」にこだわりたいと考えていたとき、メンバーに楽団をご存じの方がいて、打診をいただいたのです。
西脇さん:ご依頼には「ぜひご一緒させていただきたい」と即答しました。H2Oグループはサステナビリティ経営方針の重点テーマの一つに「地域の『子どもたち』を育む」を掲げ、楽団でもかねてから取り組みを強化したいと考えていたからでした。とはいえ、私たちも子どもたちの歌やダンスの伴奏は初めての挑戦です。ブレが許されないテンポの刻み方、ボーカルの息遣いとの間合いのつくり方には、これまでにない難しさを実感しました。でも、キラキラした目で踊る子どもたちに負けず、すてきなステージを作りあげたいと思います。
2023年8月に行われた「川西ステージ」第1回合同練習の様子
――今後の展望をお聞かせください
西脇さん:「日生中央サピエ」での経験を通して、大編成の「楽団」ではなく、小さなパッケージでも十分活動できる手応えを得ました。大きなイベントへの参加はもちろん、可変性を高めて、さまざまなスタイルで出演機会を増やしていきたいです。そして、さらに技術を向上させ、活動を再び活性化させていきたいです。
寄川さん:コロナ禍での経験を踏まえ、「音楽にできること」を積極的に広げていきたいと考えています。「地域の『子どもたち』を育む」と同じく、「サステナビリティ経営方針」の重点テーマ「地域の『絆』を深める」に対しても、私たちができることはたくさんあるはずです。グループの方針に沿いつつ、先輩方が築き育ててきたこの楽団が、さらに地域の方々のお役に立てるよう努めていきます。