
エイチ・ツー・オー コミュニケーションNEXT株式会社 北村和樹さん
競争の激しい食サービスアプリ。当社グループでも2023年5月に、飲食店を素早く便利に探す、情報を見て楽しむ、来店してポイントが貯まるなど、さまざまな体験がシームレスにつながるアプリ「まちうま」をリリースしました。大阪府高槻市から試験運用を開始し、2025年7月には利用者からのお声をもとにリニューアルしました。2025年9月現在、会員数は約10万人で、高槻市の人口を35万人とすると、3~4人に一人はアプリをダウンロードしくださっていることになります。なぜエイチ・ツー・オー リテイリングが食のサービスアプリを始めたのか、また7月のリニューアルはどういったものか、「まちうま」を運営するエイチ・ツー・オー コミュニケーションNEXT株式会社の北村和樹さんにお聞きしました。
(編集部)
「まちうま」アプリのインストールはこちらから


「まちうま」ののぼりを立てた加盟店
――どうしてH2Oリテイリンググループが食のサービスアプリを始めたのでしょうか?
北村さん:コロナ禍でグループ全体の店舗営業がままならなくなったとき、リアルな店舗だけではお客さまとの接点が不十分であることが明らかになりました。そこでグループとして、関西エリアで多くの生活者が頻度高く利用することを目的とする地域生活に密着したオンライン基軸のサービスを開発・展開し、お客さまとの新たな接点を創出していこうという方針が打ち出されました。
ではどんなサービスが良いのかと考えていた当時、緊急事態宣言で、街を歩くとシャッターが降りている店が多く、もの悲しい雰囲気でした。それを見て、街の元気こそが私たちの商売の源泉だとあらためて感じました。そして新サービスは街を元気にするものであるべきだと思ったんです。
特に街の活気は飲食店が担っていると気付いて、まず飲食店を盛り上げたいと考えました。この想いから生まれたのが「まちうま」です。
――方針が決まってからはスムーズに進みましたか?
北村さん:いいえ。当時、既存事業から独立したオンライン基軸の取り組みがグループとしては珍しく、ノウハウもなかったので、「ユーザー視点で便利なサービスとは何か」を一から構想するのに苦労しました。
アプリをリリースしてからも、一定数ダウンロードはしていただけたものの、継続的な利用にはつながりませんでした。他のグルメサービスとの差別化を図るためにさまざまなユニークな機能を実装しましたが、反応はいまひとつ。それでもサービス向上を目指し、利用者の方へインタビューを重ねるうちに、自分たちの目指すべき姿が見えてきました。

店内に設置されたPOP
――それが2025年7月のリニューアルコンセプトですね。どういったものでしょうか?
北村さん:ひと言で言うと「“まち”のグルメ盛り上げコミュニティサービスサービス」です。
リニューアル前は、グルメ検索機能を主としたサービスで、検索精度やレコメンド機能を強化する方向でサービス向上を目指していました。しかし、利用者インタビューで多かったお声は、「自分の知っているお店をみんなに知ってもらいたい」「お気に入りのお店に長く続いてほしいから応援したい」「自分の“まち”のおいしいお店を知りたい」というもの。皆さま自分の“推し店”があり、「大好きなお店のことを発信したい。高槻のみんながおすすめするお店を知りたい」と思っていたんです。
振り返ってみると、掲載店舗への口コミ件数は他社サービスに比べても引けを取っていませんでした。中には「他のグルメサービスでは口コミを書いたことがないけど、『まちうま』では書きます」という方も。全国展開のサービスだと自分の言葉が埋もれてしまう恐れがありますが、エリア限定であれば同じ地域にいる方に届くと感じられて、口コミを書くモチベーションになるとのことでした。
この想いを受けて、私たちは「グルメ検索サービス」としてではなく、高槻で生活する方々が自分の“推し店”情報を発信し交流する「“まち”のグルメ盛り上げコミュニティサービスサービス」として、地域と飲食店を盛り上げるべきなのだと気が付きました。
――具体的にどうリニューアルしたのですか?
北村さん:大きなポイントはユーザーによる投稿機能の開発です。従前の口コミ機能は当該店舗のページでしか閲覧できず、内容的にもひと言だけの感想など、お店選びの参考にするには物足りなさがありました。
新しい投稿機能は必ず画像付きなのでお店やお料理の様子が分かりますし、トップ画面でタイムライン状に掲載されるので、店舗ページを閲覧しなくてもさまざまなお店の情報を見ることができます。思いがけないお店との出会いが生まれるようになり、何か目的を持ってお店を探すためだけでなく、特に外食する予定がなくても普段からアプリを使ってもらうことを目指しています。
――リニューアルして2カ月が経ちますが、投稿機能の動向は?
北村さん:最初はどのような内容を投稿するか迷う方も多いと想定し、「お手本投稿」をする公式サポーターをユーザーの中から募集し、実際に15名の方に活動してもらいました。そのおかげもあり、一般の利用者の方の投稿も順調に増え、今では当初想定よりも多い1日40~50件の投稿がタイムラインを賑わしています。
現状のシステムでは、投稿に対するリアクションは、「いいね」ボタンだけですが、今後はコメント機能も追加し、利用者間のコミュニケーションを活性化する予定です。

「投稿」機能の実際の画面
――リニューアルに際し、大事にしたことは?
北村さん:コンセプトの「“まち”のグルメ盛り上げサービス」、それはどういうことか、私たちも地域の一員として“まち”を盛り上げるために、地域と長期的な関係を結ぶのはどうすればいいのか、を徹底的に考えました。そして、飲食店、生活者、行政、地域団体といった「まちうま」に関わってくれる皆さまに対して、いかに想いを共有できるかが大事だと考え、それぞれの関係者に対して行動指針を策定するなど、力を入れました。
サービスはオンライン基軸ですが、想いを伝えるにはやはりリアルな接点も重要です。自治体や地域団体の方と定期的にコミュニケーションをとったり、加盟店の皆さまを招待した懇親会を開催したり、アプリ・サービスの方向性など、直接熱意を持って伝える機会を設けています。
アプリ・サービスの提供者であると同時に、地域の一員として、関係者全員が「高槻を盛り上げたい」という想いを同じくする、いわば「高槻エリア飲食店のファンコミュニティ」作りを目指しています。
――地域のイベントにも参加されていますよね?
北村さん:はい。地域で行われるリアルのイベントにも積極的に参加して、地域の一員としての存在感を高めています。「“まち”をみんなで盛り上げる」という目的の実現には、アプリだけでは限界があります。地域に根差した小売業者として長くご愛顧いただいております私たちには、リアルでの接点づくりに一日の長があり、それを活用しない手はありません。リアルとオンラインの両軸でつながり、親近感を持っていただいてこそ、ファンコミュニティサービスが成立すると思っています。そしてそれが「コミュニケーションリテイラー」の姿だと私は考えています。
――「まちうま」のこれからを教えてください
北村さん:高槻でモデルとして成功することができたら、次のエリア拡大も考えていきたいと思っています。地域の一員として“まち”の盛り上げに貢献し、地域固有の課題解決に役に立つサービスとして成長していきます。

地域イベントに出展した際の様子(2024年11月)