株式会社ハートダイニング 竹本賢市さん
エイチ・ツー・オー リテイリンググループが目指している「『楽しい』『うれしい』『おいしい』の価値創造を通じ、お客さまの心を豊かにする暮らしの元気パートナー」。その最前線で働くグループ従業員を、従業員食堂の運営という「食」の側面から支えているのが、株式会社ハートダイニングです 。
深刻な人手不足やコスト高騰という逆風の中、同社が向き合ったのは単なる効率化ではありません。それは、働く人の「心」に火を灯す、抜本的な組織改革でした 。
「働く人が笑顔でなければ、お客さまの心を豊かにすることはできない」という強い信念のもと、従業員食堂を「ただ食べる場所」から「働く活力を作る場所」へと変貌させ、食事を通じた健康経営に挑戦する株式会社ハートダイニングの竹本賢市さんにお話を伺いました。
(編集部)
― まずは、竹本社長が就任した当時の状況と、最初に取り組まれたことについて教えてください。
竹本:2023年12月の社長就任時、私がまず感じたのは現場の疲弊でした。深刻な人手不足により、日々の業務を回すだけで精一杯となり、新しいことに挑戦する活気が失われつつある状況だったのです。
そこで未来への存続をかけた再生への第一歩として経営資源を集約するための「店舗閉鎖」を決断しました。当時は、従業員食堂や営業店舗に加え、運転免許試験場の食堂や研修センターなど幅広い領域で展開しており、このまま無理を続ければ、現場が崩壊しかねない状況でした。
苦渋の決断ではありましたが、まずは人材配置を最適化し、事業を継続できる基盤を整えました。同時に、乱立していたコラボメニューや施設ごとの独自メニューを一旦中止し、「基本的な定食を、心を込めて安定して提供すること」を最優先に掲げ、現場の足元を固めることから始めたのです。
約320人のスタッフが百貨店で働く従業員の胃袋を支えている
― メニューの質についても変革を行われたそうですね。
竹本:はい。単なる価格競争からは脱却したいと考えました。「安かろう悪かろう」では、私たちのお客さまである従業員の皆さんも、作る側のスタッフも喜びを感じることができないからです。そこで、原価をかけてでも質の高いメニューを提供しようと呼びかけました。
例えば、480円の「濃厚魚介つけ麺」などは、従業員食堂としては高めの価格設定ですが、非常に多くのご注文をいただいています。働く環境の改善で心に余裕を持ち、スタッフ自らが楽しみながら「高付加価値」の商品を生み出すことが、結果として従業員の皆さんの最高の笑顔に繋がると考えています。
加えて、持続可能な食堂運営を目指す取り組みも進めています。以前は店舗ごとに異なっていたメニューや調理工程を統一することで、効率化とコスト管理の両立に取り組んでいます。また、深刻な米不足への対策として、今期からは米農家との直接契約を開始しました。これは単なる仕入れルートの確保にとどまらず、新規就農者を支援する重要なプロジェクトとして、今後さらなる拡大を目指しています 。
―「従業員の満足度向上」を大切にされる理由はどこにあるのでしょうか?
竹本:私は、働く仲間が「この会社で働いていて良かった」と面白さややりがいを感じていなければ、お客様への温かいおもてなしは生まれないと考えています。その想いを形にするため、日々の誠実な仕事や店舗運営に欠かせない裏方の頑張りを称える「報奨制度」を導入しました。業務改善やサービス向上など、個人・チームの貢献を毎月表彰・報奨することで、全従業員の自己肯定感を高めていきたいと考えています。
また、福利厚生の充実にも着手しました。対象を社員だけでなく、現場を支えるパートタイマーの方々まで拡大し、飲食や、家事・育児支援など幅広い分野で活用できる特別優待サービスの導入や、自店舗での従業員割引も併せてスタートさせました。私たちが誇りを持って提供している料理を、まずはスタッフ自身に楽しんでもらいたい。そして自信を持ってお客さまに届けてほしい。この制度は、スタッフへの感謝であると同時に、共に「食』を学ぶための支援でもあります。
―「スマートミール認証(※)」への取り組みでも、現場に大きな変化があったとお聞きしました
竹本:「美味しいものを食べているうちに、知らず知らずのうちに健康になる」――。そんな理想を掲げ、人気メニューをスマートミールの基準に適合させる挑戦を始めました。
基準をクリアするには非常に細やかな管理が求められるため、当初は現場から「面倒だ」といった反発が出ることも覚悟していました。しかし、いざ蓋を開けてみると、リーダーの卓越したリーダーシップによりチームが驚くほど前向きに団結してくれたのです。その姿を見たときは、涙が出るほど嬉しかったですね。
メンバーが自ら最高ランクの「三ツ星」取得という高い目標を掲げ、一丸となって取り組んだ結果、見事達成することができました。自分たちの仕事が外部機関から認められたことは、スタッフ一人ひとりの自信と誇りに繋がっています。現在は、管理栄養士11名による健康イベントを全支店へ拡大しており、阪急・阪神両本店から始まったその輪は、着実に広がっています。
※スマートミールとは:一食の中で、主食・主菜・副菜が揃い、野菜がたっぷりで食塩のとり過ぎにも配慮した、健康づくりに役立つ栄養バランスのとれた食事のこと。
この日のスマートミールは海老チリ
― 最後に、今後の展望を教えてください。
竹本:私たちのミッションは、食事を通じてお客さまの健康を支え、エイチ・ツー・オーグループにとって「なくてはならない存在」であり続けることです 。現場の環境を整え、スタッフがやりがいを持って働けるようになれば、自ずと料理の質も、おもてなしの心も高まっていくと信じています。
今後は、心理的安全性を可視化するAIツールの導入などで、教育・研修の「自分事化」を進めていく予定です。自分や相手の本質を理解することで「1on1(個人面談)の質」を標準化し、一人ひとりのやる気を最大限に引き出したいと考えています。
そうしたテクノロジーの力を借りながら、最終的に目指すのは、AIには決して代えられない、「細やかな心配り」が自然と溢れだす組織です。
食を通じて従業員の活力を最大化し、それを地域の皆さまへのより良いサービスへと繋げていく 。ハートダイニングの挑戦はまだ始まったばかりですが、グループ全体の成長を足元から支える原動力となれるよう、突き進んでまいります。


